
親の介護が始まった。このまま仕事を続けられるのか、不安でいっぱい。

仕事を休む日が増えて、いっそ辞めたほうがいいのかと考えてしまう。
そう思い詰めていませんか。
結論からお伝えします。
仕事は、辞めずに続けられる方法があります。
理学療法士として18年、訪問看護ステーションで10年以上、働きながら介護するご家族さんに関わっていきました。
抱え込んで離職寸前まで追い詰められた方も、頼り先を整えて両立できた方も、どちらも見てきました。
この記事を読むことで、漠然とした不安が「これならやっていけそう」という見通しに変わっています。
あなたの仕事と生活、そして親御さんの暮らしの両方を守るために、できることから始めましょう。
介護サービスは元気なうちから!早めに使う5つの理由と始めどき を読んでみる。
介護離職は、しないほうがいい

まず大切な結論です。
介護のために仕事を辞めるのは、可能な限り避けてください。
介護を理由に仕事を辞める人は、年間およそ10万人いるといわれます(総務省統計局の調査『令和4年就業構造基本調査の結果』)。
決して、あなただけの悩みではありません。
「子育てが落ち着いたと思ったら、今度は介護が始まる」。そんな声もあります。
介護は、誰の人生にも、突然やってきます。
ただ、勢いで辞めてしまうと、後でつらくなることがあります。
仕事は、収入だけのものではありません。
家の外に居場所があること自体が、介護を続けるあなたの支えになります。

「辞めればラクになる」と思って離職し、かえって孤立して苦しくなった方を、何人も見てきました。辞めるのは、頼れる先を整えてからでも遅くありません。
なお、すでに離職を選んだ方を責める話ではありません。事情はそれぞれです。
今いる場所から、できることを一緒に考えていきましょう。
訪問看護の現場で遭遇したケース

現場で見た、ある息子さん
親御さんが家で転んで入院。退院に合わせ、息子さんが同居して介護を始める。
「長男の自分がやるしかない」。責任感から仕事を辞める。
24時間の介護で夜眠れず、心身が限界に。収入も気持ちの逃し場も失い、親御さんに強く当たることが増える。
ケアマネに相談。ショートステイや通所サービスで親と離れる時間を意図的に作る。負担がやわらぎ、復職を考えられるように。
以前と同じ給与・役職に戻れる職場は見つからず。中年での再就職の難しさに直面。
退職ではなく介護休業・介護休暇を使っていれば、働く場所を残したまま介護の体制を整えられたかもしれません。
これまで、元気な親御さんとあまり関わってこなかった息子さんがいました。
ある日、親御さんが家の中で転んで入院します。
退院に合わせて、息子さんは有給休暇で仕事を休み、同居して介護を始めました。できないことが増えた親御さんの姿を見て、こう考えます。「長男の自分が、やるしかない」「仕事を辞めれば、親孝行ができる」。
責任感の強い、まじめな方でした。そして、仕事を辞めました。
ところが、24時間一緒の生活が始まると、少しずつ歯車が狂っていきます。
親御さんは、体のしんどさや痛みから、愚痴をこぼすようになります。介護を始めた頃はゆっくり聞けていた息子さんも、毎日が続くうちに夜眠れなくなり、心も体も追い詰められていきました。
収入は減り、自分の気持ちの逃し場もありません。大事にしたかったはずの親御さんに、つい強く当たることが増えていきました。
ここで息子さんは、ケアマネージャーに相談します。ショートステイ(短期間の宿泊)や通所サービスを使い、親御さんと離れる時間を意図的に作りました。
自分の時間が戻ると、心と体の負担はやわらいでいきました。そして、復職を考えられるようになります。
けれど、ここで壁にぶつかります。以前と同じ給与や働き方、役職にもどれる職場は、なかなか見つかりませんでした。中年での再就職には、難しさがあります。
もしこの息子さんが、退職ではなく介護休業や介護休暇を使っていたら。働く場所を残したまま、介護の体制を整えられたかもしれません。

辞めるのは、いつでもできます。でも、戻るのは簡単ではありません。だからこそ、辞める前に一度、ケアマネージャーや会社に相談して欲しいです。
親孝行したい時こそ、辞めないでほしい
こういう気持ちの方もいます。
病気などで、親御さんに残された時間に、ある程度の見通しが立つことがあります。そんな時、「できる限りのことをしてあげたい」「全部の時間を、親のために使いたい」。そう思うのは、とても自然で、優しい気持ちです。
その気持ちは、否定しません。
それでも、私は離職をおすすめしません。
理由は3つあります。
介護休業や介護休暇を使いながらでも、仕事は続けて欲しいです。
介護は、短距離走ではなくマラソンです。中長期で、無理なく関わることが大切になります。

まったく関わらないと、後悔が残ります。でも、全部を背負う必要もありません。できるところから関わる。それだけで「やりきった」と思えて、後悔はぐっと小さくなります。
「もう両立できない」と感じる3つの理由

なぜ、働きながらの介護はこんなに苦しくなるのか。現場で見てきた理由は3つあります。
「フルで仕事しながら介護するのは本当に大変だ。経験しないと分からない」。この言葉に、うなずく方は多いはずです。
理由1 「自分がやるしかない」と抱え込む
いちばん多いの理由です。
家族のことだから、自分が見なければ。そう思って一人で背負い、気づくと仕事も生活も回らなくなります。まじめで責任感の強い方ほど、この形に陥ります。
理由2 突然始まり、見通しが立たない
介護は、ある日いきなり始まります。何が必要かも、いつまで続くかも分からない。
この「先が見えない不安」が、人をいちばん消耗させます。逆に、見通しさえ持てれば、仕事は続けやすくなります。
理由3 認知症など、対応が重なって心が折れる
仕事で疲れて帰った後に、認知症の対応が待っている。これは、想像以上に消耗します。
親御さんが怒りっぽくなって戸惑う時は、認知症で親の性格が変わった?怒りっぽくなる理由3つと家族の対応5選も読んでみてください。理由が分かると、少し気持ちが軽くなります。

心が折れかけるのは、あなたが弱いからではありません。一人で抱える量が多すぎるだけです。
仕事と介護を両立する5つのコツ

ここからが本題です。両立できた家族に共通する、5つのコツをお伝えします。
コツ1 「自分がやるしかない」を手放す
両立の第一歩は、抱え込みを手放すことです。
介護保険サービスを使えば、入浴や通院、見守りなどを専門職に任せられます。あなたがやるのは「介護のすべて」ではなく「マネジメント(采配)」だと考えてください。
サービスは早く使うほどラクになります。
詳しくは介護サービスは元気なうちから!早めに使う5つの理由と始めどきで解説しています。
コツ2 早めにケアマネージャーとつながる
両立のいちばんの味方が、ケアマネージャーです。
ケアプラン(介護の計画)を一緒に作り、あなたの仕事の状況に合わせてサービスを組んでくれます。まずはお住まいの地域包括支援センター(介護の最初の相談窓口)に連絡してください。

「仕事があるので日中は動けません」と最初に伝えてください。その前提でプランを組むのが、私たち専門職の仕事です。遠慮はいりません。
コツ3 会社に早めに伝える
介護を一人で隠して抱える必要はありません。
会社には、後でお話しする両立支援制度があります。介護休業や短時間勤務などは、申し出て初めて使えます。上司や人事に早めに伝えておくと、急な時も休みを取りやすくなります。
コツ4 家族で分担する
介護は、一人で背負うものではありません。
きょうだいがいるのに負担が自分に偏っている時は、親の介護を兄弟に押し付けられた時の対処法5つと角を立てない伝え方を参考にしてください。
お金を出す、情報を集める、たまに帰省する。手を動かす以外の役割もあります。
コツ5 自分の休息を守る
最後に、いちばん大切なことです。あなたが倒れたら、介護も仕事も続きません。
しっかり眠る、休む日を作る。これは、わがままではなく必要な備えです。
負担が大きくなりすぎていないかは、在宅介護の限界サイン7つと共倒れを防ぐタイミングでチェックできます。
辞めずに両立できたケース

介護休業と有給休暇を組み合わせて、まとまった時間を確保した。
医師の説明・面会・洗濯物など、やることは想像以上。介護休業は有給とは別に取れるので、急な予定変更にも対応できた。面会は情報集めと、親子の関係を築き直す時間に。
退院後1か月以内は、受診・介護保険の手続き・新しいケアマネとの面談が重なる時期。ここを休業で時間を確保し、親御さんの様子を見守れた。
訪問スタッフと顔合わせができ、「この人なら安心して任せられる」という余裕を持てた。顔を知っているだけで、その後のサービスはぐっと使いやすくなる。
介護休業給付金があり「休んでも収入がゼロにならない」安心が、気持ちの負担を軽くしてくれた。
退職せずに介護休業・有給休暇・介護休業給付金を組み合わせたことで、働く場所もお金も気持ちの余裕も守りながら、両立を続けられました。
先ほどの息子さんと、対になる例もお話しします。仕事を辞めずに、両立できた方です。
この方は、親御さんが入院した時、介護休業と有給休暇を組み合わせて時間を作りました。
入院中にやることは、思った以上にあります。医師から治療方針の説明を受ける、必要な洗濯物を取りに行く、面会に行く。
介護休業は有給休暇とは別に取れるので、急な予定の変更にも対応できました。
面会や医師の説明の時間は、ただの付き添いではありません。今後の生活を考えるための情報を集め、親御さんとの関係を築
き直す、大切な時間になります。
退院した後も、休業が活きました。退院から1か月以内には、経過を見るための受診が入ることが多いです。そこに、介護保険サービスを始める手続きや、新しいケアマネージャーとの面談も重なります。
この、生活を立て直す山場に、介護休業で時間を確保し、親御さんの様子を見守れました。
サービスを始める時も、訪問してくれるスタッフと顔合わせができ、「この人なら安心して任せられる」という余裕を持てました。顔を知っているだけで、その後のサービスは、ぐっと利用しやすくなります。
お金の面でも、介護休業給付金があることで、「休んでも収入がゼロにならない」という安心が、気持ちの負担を軽くしてくれたそうです。
そして、この方は仕事を辞めずに、両立を続けられました。

ポイントは、休業を「介護そのもの」ではなく「体制を整える時間」に使ったことです。最初に土台を作れば、あとは働きながら続けられます。
知っておきたい仕事と介護の両立支援制度4つ

働きながら介護する人を守るため、法律で決められた制度があります。
制度の対象や手続きは、勤務先の就業規則や、市区町村・ハローワークで確認できます。年度によって内容が変わることもあるため、利用前に最新の情報をご確認ください。

「介護休業は、介護に専念する休み」と思われがちですが、本当の目的は「両立の体制を整える準備期間」です。この93日で、サービスやケアマネとの体制を作るのがおすすめです。
介護休業制度をくわしく解説

支援制度の中でも、特に知っておきたいのが介護休業です。仕事と介護を両立しながら、まとまった期間休める制度です。
直接介護をするためだけの休みではありません。「働き続けられる体制を整えるための準備期間」として活用することがすすめられています。
ここでは、厚生労働省の案内をもとに、制度の中身をまとめます。
制度の概要(目的と期間)
- 目的:けがや病気、障害などで、2週間以上にわたり常に介護を必要とする状態(要介護状態)の家族を介護するための休みです。
- 期間と回数:対象となる家族1人につき、通算93日まで。最大3回まで、分けて取れます。
利用できる人
原則として、日雇いを除く、男女すべての労働者が対象です。
契約期間の決まった働き方(パート・アルバイト・契約社員など)の方も、申出の時点で条件を満たせば利用できます。休業開始予定日から93日を過ぎる日の、さらに6か月後までの間に、契約が満了して更新されないことが明らかでない場合です。
ただし、会社と従業員代表の取り決め(労使協定)がある場合、次の方は対象外になることがあります。
対象になる家族
- 配偶者(事実婚を含む)
- 父母、子
- 祖父母、兄弟姉妹、孫
- 配偶者の父母
手続きの方法
- 申出:休業を始めたい日の2週間前までに、書面などで会社に申し出ます。
- 変更:終了予定日の2週間前までに申し出れば、1回の申出につき1回まで、終了日を後ろにずらせます。
休業中のお金(介護休業給付金)
雇用保険に入っていて一定の要件を満たす場合、休業期間中に、休業開始時の賃金日額の67%相当額が給付されます。くわしくは、お住まいを管轄するハローワークで確認してください。

93日を一度に使い切る必要はありません。退院のとき、サービスを組み直すときなど、介護の山場に分けて充てるのがおすすめです。
制度の内容は改正されることがあります。利用の前に、厚生労働省のページや勤務先、ハローワークで最新の情報をご確認ください。
介護休暇をくわしく解説

介護休業が「まとまった休み」なら、介護休暇は「スポット(短期間)の休み」です。日々の介護の用事に、こまめに使えます。
通院の付き添いや、介護サービスの手続き、ケアマネージャーとの短い打合せなどに利用できます。
ここでも、厚生労働省の案内をもとにまとめます。
出典:厚生労働省「介護休暇」
取得できる日数と単位
- 日数:対象となる家族が1人なら1年に5日まで。2人以上なら1年に10日までです。
- 単位:1日単位でも、時間単位でも取れます。短い用事に使えて便利です。
業務の性質上、時間単位での取得が難しい場合は、労使協定(会社と従業員代表の取り決め)で時間単位が除外されることがあります。
賃金と申出の方法
- 賃金:ふだんの有給休暇(年次有給休暇)とは別に取れます。有給か無給かは、会社の規定によります。
- 申出:書面だけでなく、口頭でも申し出られます。急な通院などにも使いやすい制度です。
対象になる家族と労働者
対象となる家族の範囲は、介護休業と同じです(配偶者・父母・子・祖父母・兄弟姉妹・孫・配偶者の父母)。
「子」には、障害のあるお子さんや、医療的ケアが必要な子ども・人(医療的ケア児者)も含まれます。ただし、乳幼児の通常の成長で必要な世話は、対象に含まれません。
対象となるのは、日雇いを除く男女の労働者です。労使協定がある場合、1週間の決められた勤務日数が2日以下の方などは、対象外になることがあります。
なお、勤続6か月未満を理由に対象外とすることは、2025年4月から、できなくなりました。

時間単位で取れるのが、介護休暇の便利なところです。「午前だけ通院に付き添う」といった使い方なら、有給休暇を1日まるごと使わずに済みます。
介護休暇の内容も改正されることがあります。利用の前に、厚生労働省のページや勤務先で最新をご確認ください。
よくある質問

- Q介護休業は、どんな時に使うのがいいですか?
- A
介護に専念するためではなく、両立の体制を整える準備期間として使うのがおすすめです。この期間にケアマネージャーを決め、サービスを組み、家族の役割を話し合っておくと、復帰後に働き続けやすくなります。
- Q会社に介護のことを言いづらいです。伝えるべきですか?
- A
早めに伝えることをおすすめします。制度は、申し出て初めて使えるものが多いからです。急に休む時にも理解を得やすくなります。まずは信頼できる上司か人事の窓口に相談してみてください。
- Q親が遠くに住んでいます。それでも両立できますか?
- A
できます。遠距離の場合こそ、地域包括支援センターやケアマネージャーとつながることが大切です。現地のサービスで日常を支え、あなたは要所で関わる形にすると、仕事を続けやすくなります。
- Q収入が減るのが不安です。使えるお金の制度はありますか?
- A
介護休業を取ると、雇用保険から給付金(休業前賃金の67%が目安)を受けられることがあります。介護費用そのものも、介護保険で自己負担は原則1〜3割です。具体的な金額は、勤務先や市区町村の窓口で確認してください。介護費用の負担割合は親御さんの所得により決まります。
- Qもう限界です。やはり辞めるしかないでしょうか?
- A
辞める前に、一度だけ地域包括支援センターに相談してみてください。サービスを足したり、会社の制度を使ったりで、状況が変わることがあります。
まとめ

仕事と介護は、両立できます。大切なのは、一人で抱えないことです。
すべてを完璧にやる必要はありません。まず一本、地域包括支援センターに電話することから始めてください。
完璧な両立を目指さなくて大丈夫です。あなたとご家族が納得できる形で、仕事も暮らしも続けていけることが、いちばん大切です。

「辞めずに済む方法はないか」。その視点で一度立ち止まると、道は見つかります。あなたの人生も、介護と同じくらい大切です。


