
来週退院と言われたけれど、まだ介護認定の結果も出ていない。

父が「家に帰る」と言い張って、話が進まない。
退院の日が決まってから、実際に家に帰るまでの数日間。この短いあいだに、家族は驚くほど多くのことを決めることになります。
戸惑うのは当然です。
理学療法士として18年、訪問看護ステーションで10年以上勤務してきた私が解説します。病院の側で退院前の話し合いに同席し、ご家族が「今ここで決めてください」と迫られる場面を何度も見てきました。
家族が決めることは、次の5つです。
- どこで暮らすか
- お金をどうするか
- 誰が動くか
- 退院当日にどう帰るか
- 介護サービスをどう手配するか
大事なのは、この5つを決める順番です。
順番を間違えると、決めたことを何度もやり直すことになります。
この記事を読むことで、退院までの残りの日数で誰に相談し、何から決めればいいのかが見えてきます。
あなたが落ち着いて判断できることが、親御さんにとって一番の支えになります。
退院後の介護で家族が決めることは5つ

退院後の介護は、決める中身よりも、決める順番で負担が変わります。
家族が決めることは、次の5つです。
- どこで暮らすか(自宅か、施設か)
- お金をどうするか
- 誰が中心になって動くか
- 退院当日にどう帰るか
- 介護サービスをどう手配するか
この並びは思いついた順ではありません。前の項目が決まらないと、次の項目が決められない順番になっています。
退院後の介護で最初に決めるのは「どこで暮らすか」
暮らす場所が決まらないと、残りの4つはすべて宙に浮きます。
自宅に帰るなら、必要なのは介護ベッドや手すり、訪問のサービスです。施設に移るなら、必要なのは入居の申し込みと費用の準備になります。
必要な道具も、相談する相手も、かかるお金も変わります。

病院で見ていると、順番が逆になっているご家族をよく見かけます。
福祉用具のカタログを熱心に見比べているのに、そもそも自宅に帰るかどうかが決まっていない。もう一度やり直しになってしまうので、もったいないです。
退院後の介護は順番を間違えるとやり直しになる
決める順番を飛ばすと、時間もお金も二重にかかります。
よくあるのは、自宅の準備を進めたあとで「やはり家では見られない」と分かる流れです。
手すりを取り付け、ベッドを借りたあとで施設を探し始めると、退院日までに間に合いません。
逆に、暮らす場所さえ決まっていれば、あとは順番に埋めていくだけになります。
残りの日数が少なくても、順番さえ守れば間に合います。
退院後の介護でお金をどうするか決める
お金は、暮らす場所が決まってから考えると整理しやすくなります。
自宅に帰る場合にかかるのは、介護保険のサービス料、福祉用具のレンタル代、住宅改修の自己負担分です。
施設に移る場合は、月々の利用料に加えて、入居のときに一時金が必要になることがあります。
どちらも介護保険の自己負担割合(1割から3割)で、支払う金額が変わります。
施設の月額と一時金の相場は【2026年最新】老人ホーム費用はトータルいくら?月額・一時金の相場と安く抑えるコツ3選にまとめています。
退院後の介護で誰が中心になって動くか決める
病院は、ご家族のなかで連絡の窓口になる方を確認します。
退院前の話し合いの日程も、ケアマネジャーからの連絡も、その方に集まります。
決めないまま進むと、「聞いていない」「言ったはずだ」というすれ違いが後から出てきます。

連絡の窓口が、県外で離れて暮らすご家族になっていることがあります。退院後の生活を実際に見るご家族と、病院から連絡を受けるご家族が別々になると、お互いの思いがぶつかることがありました。どちらも本人を思っての意見なので、どちらが正しいという話にはなりません。
中心になる方が、すべてを抱える必要はありません。
窓口は1人にして、実際に動く場面を分担する形でも構いません。
きょうだいの間で分担の話がまとまらないときは、【解決策】親の介護を兄弟に押し付けられた時の対処法5つと角を立てない伝え方が参考になります。
退院後の介護を在宅にするか施設にするか決める5つの材料

在宅か施設かは、気持ちではなく5つの材料で決めます。
どれか1つで決めないでください。5つを並べたうえで、無理のない方を選びます。
本人の体の状態と、改善する見込み
いちばん先に確認したいのは、今の状態が「これから変わるのか」「ほぼこのままなのか」です。
同じ「歩けない」でも、意味がまったく違います。
骨折の手術後でこれからリハビリが進む段階なのか、病気の影響で今の状態が続くのか。
前者なら3か月後の暮らしを想定して準備しますが、後者なら今の状態に合わせて整えます。
この見立ては、リハビリの担当者に直接聞くのが確実です。
「今後、どのくらい動けるようになりそうですか」と聞いてください。

病院のリハビリ担当者は、ご家族から聞かれれば必ず答えます。ただ、こちらから声をかけないと伝える機会がないまま退院日が来てしまうこともあります。
家で必要になる医療的なこと
たんの吸引や点滴、床ずれの処置が必要かどうかで、選べる道が変わります。
医療的な処置が続く場合、家族だけで担うのは負担が大きくなります。
訪問看護を使えば自宅でも対応できますが、夜間や急に体調が悪化したときの体制まで含めて考える必要があります。
何が必要になるのかは、退院前に病棟の看護師に確認してください。
家族が実際に動ける時間
理想ではなく、実際に確保できる時間で考えます。
仕事を続けながら介護する場合、平日の日中は家に誰もいません。
「昼ごはんは誰が用意するのか」「トイレに間に合わなかったときは誰が対応するのか」を、具体的な時間帯で書き出してみてください。
書き出すと、足りない時間帯がはっきりします。その穴を埋めるのが介護サービスです。
在宅で見続けられるかどうか迷っている方は、【理学療法士18年が解説】在宅介護の限界サイン7つと共倒れを防ぐタイミングもあわせて読んでみてください。
家の環境
段差・トイレ・お風呂の3か所を見てください。
玄関に段差があると、帰った初日から入れません。トイレが2階にしかない、浴槽をまたげないといった問題は、住宅改修や福祉用具で解決できることがあります。
ケアマネジャーが自宅を見に来る機会があるので、そのときに気になる場所をすべて伝えてください。

ご家族が「うちは大丈夫です」とおっしゃっていた家でも、実際に伺うと玄関の上がり框(あがりかまち)が高くて入れないことがあります。健康な人には段差に見えない高さでも、退院直後の足では上がれません。
本人の希望
最後に、本人がどうしたいかを確認します。
順番を最後にしたのは、軽く見ているからではありません。
体の状態や家の環境という事実を先に押さえてから聞かないと、希望を叶えられるかどうかが判断できないからです。
事実がそろっていれば、「その希望を叶えるには何が必要か」という話ができます。
退院後に歩けなくなるのではという不安への答え

入院で落ちた体力には、戻る部分と戻りにくい部分があります。
「入院前は歩いていたのに、こんなに弱ってしまった」という驚きは、ご家族から本当によく聞きます。
リハビリ職の立場から不安に答えます。
退院後に体力が落ちているのは病気だけが原因ではない
入院中に落ちる体力の一部は、動かない時間が続いたことによるものです。
ベッドの上で過ごす時間が長くなると、使われない筋肉は落ちていきます。病気やけがそのものによる影響とは別に、この「動かなかった分」が重なります。
動かない時間が続くことで起きる状態を「廃用症候群」と呼びます。
体を動かさない状態が続くと、筋力の低下をはじめとした不調が二次的に起こります。これらをまとめた呼び名が廃用症候群です。
出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会資料「個別事項(その5:リハビリテーション)」(平成27年12月2日)22ページをもとに作成
動かなかったことで落ちた分は、動くことで戻せる場合があります。
ここが希望の持てる部分です。
退院後に戻る見込みを3つの目安で分けて考える
戻る見込みは、次の3つで見立てます。
入院前はどのくらい動けていたか
自分で買い物に行けていた方なら、その暮らしが目標になります。入院前から介助が必要だった方は、その暮らしに戻ることが目標です。
同じ「元どおり」でも、指す場所は人によって違います。
入院した原因が治る種類のものか
骨折のように治っていくけがは、治り方に合わせて動ける範囲が広がっていきます。少しずつ進んでいく病気では、同じような進み方にはならないことがあります。
もの忘れ(認知機能)の状態はどうか
練習の手順を覚えて、自分で続けられるかどうかで、リハビリの進み方が変わります。
回復には個人差があり、同じ状態からでも経過は変わります。
実際の見通しは、必ず主治医とリハビリの担当者に確認してください。

この質問には、いちばん慎重に言葉を選びます。予後は病気やけがの種類、年齢、入院前の生活習慣、認知機能の状態によって変わるからです。保証はできません。
「歩けるようになりますか」と聞かれたときに私が返している質問
私はこの質問に、別の質問を返すようにしています。
「もし歩けないままだとしたら、どんなことが困ると考えていますか」
こう聞く理由は、歩くこと自体は目的ではなく、手段だからです。
トイレに行く、お風呂に入る、外に出かける。歩くのは、そのための手段です。
困りごとがはっきりすると、歩く以外の道が見えてきます。

歩けないと目的が果たせない、という場面はそれほど多くありませんでした。手段は歩くことだけではありません。
ここで提案するのは、退院後の生活を回すための最低限の備えです。
本人の回復で、できる動作が増えることもあります。逆に、新しい病気や加齢で動作能力が下がることもあります。
動けるようになれば、福祉用具は返せますし、介護サービスも終われます。
下がったときは、ケアマネジャーをはじめ関わる人たちと相談して、組み直せます。
決めたことは、あとから変えられます。
病気が進んでいく場合に私が伝えていること
神経難病のように病気が進んでいく場合、歩くことが将来的に難しくなることがあります。
病気の診断や予後の説明は、理学療法士にはできません。医師が説明することです。
現場では、私個人の見解であることを断ったうえで伝えています。これまで見てきた経過と、そのときに取れる具体的な対応方法を、必ずセットにします。

「歩けません」と言い切ってご家族の希望を打ち砕くことが、正直さだとは思っていません。状況に応じて変えられると知ってもらい、方法を並べて選んでもらいます。
ご家族の思いは大切です。同時に、いちばん大事にしたいのは、本人がどうしたいかです。
その2つをすり合わせる場に、専門職を呼んでください。
退院後もリハビリを続ける方法がある
退院はリハビリの終わりではありません。
自宅に戻ったあとも、訪問リハビリや通所リハビリで続けられます。介護保険を使えるので、費用の負担も抑えられます。
くわしくは在宅でリハビリを受ける方法とは。にまとめています。
退院の前に、この先も続けたいとケアマネジャーに伝えておいてください。
退院に要介護認定が間に合わないときの進め方

認定の結果が出ていなくても、介護サービスを使い始められる場合があります。
これを知らずに焦っているご家族が、とても多いところです。
要介護認定の結果が出るまでにかかる期間
認定の結果は、申請してすぐには出ません。
原則として、申請から30日以内に結果を出さなければならないと決められています。
介護保険法 第27条第11項
第一項の申請に対する処分は、当該申請のあった日から三十日以内にしなければならない。ただし、当該申請に係る被保険者の心身の状況の調査に日時を要する等特別な理由がある場合には、当該申請のあった日から三十日以内に、当該被保険者に対し、当該申請に対する処分をするためになお要する期間(次項において「処理見込期間」という。)及びその理由を通知し、これを延期することができる。
出典:介護保険法 第27条第11項(e-Gov法令検索)
特別な理由があるときは、あとどのくらいかかるかと、その理由を知らせたうえで、期間を延ばせることも書かれています。
ただし、実際にこの期間で収まっている市区町村は多くありません。令和5年度の申請では、認定審査期間の平均が30日以内に収まっていた保険者は66にとどまります。
出典:厚生労働省老健局老人保健課 事務連絡「認定審査期間等の公表について」(令和7年3月31日)をもとに作成
ところが退院の日は、その30日を待ってくれません。
入院してから申請すると、結果が出る前に退院日が来ることがよくあります。
認定の結果を待たずに介護サービスを始める方法
結果を待たずにサービスを使い始める方法があります。
介護度の見込みを立てて計画を作り、その計画でサービスを始めるやり方です。ケアマネジャーが作成します。
注意点もあります。
想定していた介護度より軽い結果が出ると、使った分の一部が自己負担になることがあります。
この点は、始める前にケアマネジャーから説明を受けてください。

「認定が出ていないから何も動けない」と思い込んで、退院日まで何もできずにいたご家族がいました。地域包括支援センターに電話を1本入れるだけで、道が開くことがあります。
入院中に認定調査を受けるときの注意点
認定調査は、入院中の病室でも受けられます。
このとき気をつけたいのは、調査の場に家族が立ち会うことです。
調査員が本人の状態を確認できる時間は限られています。しかも本人は人前だと「できます」と答えることがあります。
家での様子や、できなくなったことを、家族から具体的に伝えてください。
「夜中にトイレで2回転びました」のように、場面と回数で伝えると正確に伝わります。
退院までのスケジュールと家族がやること5つ

退院の話が出た日から動き始めれば、間に合います。
やることは5つです。
まず病院の相談窓口に行く
最初にすることは、病院の相談窓口をたずねることです。
多くの病院には、入退院の相談にのる担当者がいます。医療ソーシャルワーカー(入退院や生活の相談を受ける専門の職員)と呼ばれる人たちです。
自宅に帰る場合も施設を探す場合も、この人が窓口になります。
「退院後のことで相談したい」と病棟の看護師に伝えれば、つないでもらえます。

ご家族が一人で抱えているケースの多くは、この窓口を知らないだけです。病院の中に相談相手がいると分かるだけで、表情が変わる方がたくさんいます。
退院前の話し合いに家族も入る
退院の前に、関係者が集まって話し合う場が設けられることがあります。
病院の担当者、ケアマネジャー、これから関わるサービスの事業所が集まり、退院後の生活を確認する場です。
ここに家族も入れます。
心配なことは、この場で全部出してください。あとから電話で聞き直すより、関係者が全員そろっている場で聞いたほうが早く決まります。
ケアマネジャーを決めて自宅を見てもらう
自宅に帰るなら、ケアマネジャーを決めるのが先です。
ケアマネジャーは、介護サービスの計画を作り、事業所との調整をしてくれる人です。
地域包括支援センターや病院の相談窓口で紹介してもらえます。決まったら、退院前に自宅を見てもらってください。
実際の家を見てもらうと、必要な福祉用具や住宅改修が具体的に決まります。
福祉用具と住宅改修は退院日に間に合わせる
介護ベッドや手すりは、退院日に間に合うように手配します。
福祉用具のレンタルも住宅改修も、申し込んだその日には使えません。工事が必要なものは、さらに日数がかかります。
帰った初日にベッドがない状態は避けたいところです。
ケアマネジャーが決まったら、真っ先にこの話をしてください。
食事の準備を決める
見落とされやすいのが、毎日の食事です。
退院直後は、飲み込みにくさや食べられる量の変化があることがあります。刻む必要があるのか、やわらかくする必要があるのかを、退院前に病棟で確認してください。
家族が毎食作るのが難しければ、配食のサービスもあります。
一日3食を毎日続けることになるので、最初に決めておくと後が楽になります。
退院当日の帰り方とかかるお金

退院当日は、移動手段とお金の2つを先に決めておくと慌てません。
退院のときに介護タクシーは使えるのか
車いすのまま乗れる介護タクシーは、退院のときにも使えます。
ただし、介護保険が使えるかどうかには条件があります。
介護保険の「通院等乗降介助」は、通院などのときの乗り降りの介助を対象とした仕組みです。車の運賃そのものは、介護保険の対象外とされています。
出典:厚生労働省「【資料2】各介護サービスについて」5ページをもとに作成
料金の仕組みも事業者によって違います。
早めにケアマネジャーか病院の相談窓口に確認し、当日の手段と金額を決めておいてください。予約が必要なので、退院日が決まったらすぐ動くほうが確実です。

退院の当日、玄関前で「車に乗せられない」と気づくご家族がいます。車いすから車の座席への移り方は、退院前に病棟で一度練習させてもらうと安心です。
退院した日に介護サービスを入れられるか
退院した当日から、訪問のサービスを使える場合があります。
帰った初日がいちばん不安な日です。ベッドの位置や手すりの高さも、実際に使ってみないと分かりません。
初日に専門職が来てくれると、その場で調整できます。
使えるかどうかは状況によって変わるので、ケアマネジャーに相談してください。
退院にかかった費用は医療費控除の対象になることがある
退院にかかった移動費や介護サービスの費用は、医療費控除の対象になることがあります。
対象になるもの、ならないものの線引きは細かく決まっています。領収書は捨てずに全部とっておいてください。
対象となるサービスと申告の手順は【保存版】親の介護費用は医療費控除で戻る!対象サービスと申告手順を理学療法士が解説にまとめています。
制度の内容は変わることがあるので、最終的な判断は税務署に確認してください。
仕事を休むときに使える制度
退院の付き添いのために仕事を休むとき、使える制度があります。
家族の介護のために取得できる休暇や休業の制度が法律で定められています。
介護休業:要介護状態(2週間以上常時介護を必要とする状態)にある対象家族を介護するために、対象家族1 人につき通算93日まで3回を上限として分割取得できます。
出典:厚生労働省「介護休業制度特設サイト」の介護休業・介護休暇のページをもとに作成(2026年9月時点)
介護休暇:要介護状態にある対象家族の介護・世話のために、1年度に5日(対象家族が2人以上なら10日)まで、1日単位または時間単位で取得できます(年次有給休暇とは別)。
使える日数や手続きは勤務先によって扱いが異なるので、就業規則を確認するか、勤務先の担当者にたずねてください。
仕事と介護の両立については【理学療法士18年が解説】仕事と介護は両立できる!介護離職を防ぐ5つのコツと支援制度4つでくわしく解説しています。
退院後は家に帰ると言い張る親との話し方

本人が納得しないときは、反対から入らないことが近道です。
「家では無理だよ」と最初に言ってしまうと、そこから先の話が進まなくなります。
まず希望を最後まで聞く
最初にすることは、否定せずに聞き切ることです。
なぜ家に帰りたいのかを聞くと、理由が見えてきます。
「仏壇を守りたい」「近所の人と話したい」「知らない場所が怖い」。
理由が分かれば、施設でも叶えられることが見つかります。
聞き切る前に結論を出すと、本人は「話しても無駄だ」と閉じてしまいます。
期限を区切って試す提案をする
決めきれないときは、期限を区切る方法があります。
老人保健施設(リハビリをして自宅に戻ることを目指す施設)やショートステイのように、期間を決めて使える場所があります。
「まず1か月だけ試して、また相談しよう」という提案なら、本人も受け入れやすくなります。
一度施設に入ったら二度と家に帰れない、というわけではありません。
途中の選択肢があると分かるだけで、話し合いの空気が変わります。

ご本人が抵抗しているのは、施設そのものではなく「勝手に決められたこと」だったりします。決める場に本人がいるかどうかで、その後の落ち着き方がまるで違います。
施設を選ぶことは親を見放すことではない
施設を選んだご家族が、いちばん苦しんでいるのがこの点です。
自分が見られないから預けた、という後ろめたさを抱えたまま入居を決める方がいます。
家族が倒れてしまえば、介護そのものが続かなくなります。
続けられる形を選ぶことは、投げ出すこととは違います。
施設について具体的に知りたい方は、【理学療法士18年が解説】親を施設に入れるメリット4つ・デメリット3つと後悔しない選び方を読んでみてください。
2週間だけ家に帰って試した方がいます
決めきる前に、期間を区切って試せることがあります。

私が関わった方のなかに、こんなケースがありました。
老人保健施設に入所していた方で、ご家族は施設を続けることを考え、本人は家に帰りたいと希望していました。
ご家族は県外に住んでいます。家に戻れば、本人はひとり暮らしになります。
何度も話し合った結果、まず2週間だけ外泊してみることになりました。家財道具は施設に置いたまま、扱いのうえでは2週間の退所という形です。
その2週間を支えたのは、次の組み合わせでした。
介護保険のサービスだけでは足りない部分を、自費のサービスで埋めました。
もちろん、危険がないわけではありません。
転んでしまうこと、ひとりのときに倒れて気づかれないこと。
この2つは本人とご家族にはっきり説明し、同意書にも記入していただきました。
2週間を問題なく過ごせたため、この方は数週間後に自宅へ戻りました。
うまくいった理由もはっきりしています。
認知機能の低下がなかったこと、車いすで移動できる間取りだったことの2つです。

どの方にも同じ形が使えるわけではありません。それでも、今すぐ決めきらなくていい道があると知っておいてほしいです。試してから決めた選択は、あとから揺れません。
こうした調整ができるかどうかは、施設によって変わります。
まずはケアマネジャーと施設の相談員に、こういう方法が取れないかを聞いてみてください。
本人が話し合いの場にいないまま決まることがある
認知機能の低下がある場合、本人の希望よりご家族の希望が通りやすくなります。

私が関わってきた範囲では、本人が知らない施設に移ることや、遠方の家族に引き取られることを望む方は多くありません。もとの自宅に戻りたいという思いを持っている方が多い印象です。
一方で話し合いの場は、ご家族の思いが中心になります。本人が同席していない、発言する機会がないまま決まってしまうこともあります。
これはご家族が悪いのではありません。
限られた時間で必要なことを決めなければならない仕組みの側に、無理があります。
そのうえで、できることが2つあります。

本人の言葉が一言でも残っていると、ご家族があとから振り返るときの支えになります。正解を選べたかどうかより、本人の気持ちを一度は聞いたという事実のほうが、長く効いてきます。
退院後の介護は介護度によって決めることが変わる

同じ退院でも、介護度によって決めることの中身が変わります。
自分の家がどこに当てはまるかを見てください。
まだ認定を受けていない場合
いちばん先にすることは、申請です。
市区町村の窓口か地域包括支援センターで申請します。入院中でも申請できます。
結果を待つあいだの進め方は、この記事の「退院に要介護認定が間に合わないとき」で説明したとおりです。
要支援1から要介護2の場合
自宅に帰る選択がしやすい範囲です。
決めることの中心は、日中の過ごし方です。
デイサービスに通うのか、訪問のサービスを入れるのか。家族が仕事に出ている時間帯をどう埋めるかが軸になります。
福祉用具は、手すりや歩行器など小さなものから検討します。
要介護3から4の場合
在宅か施設かを、いちばん真剣に検討する範囲です。
移動や排せつに介助が必要になり、家族の負担が大きく増えます。
訪問のサービスを組み合わせれば自宅でも続けられますが、夜間の対応をどうするかが分かれ目になります。
特別養護老人ホームの申し込みができるのも、原則としてこの範囲からです。
- 入所判定の対象は、原則として要介護3から5
- 要介護1・2でも、居宅での日常生活が困難で「やむを得ない事由」がある場合は、特例入所の対象
- 自治体や施設の入所指針に基づき、本人の介護状況や家族の状況などを考慮して入所判定
出典:厚生労働省「指定介護老人福祉施設等の入所に関する指針について」(平成26年12月12日 老高発1212第1号)をもとに作成
要介護5の場合
医療的な処置と、家族の体力の2つで判断します。
たんの吸引や経管栄養が必要な場合、24時間の体制をどう組むかが課題になります。
介護をする側が高齢のご夫婦であれば、自宅で続けることは現実的ではないこともあります。
無理をせず、施設という選択肢も並べて考えてください。

介護度が重いほど自宅は無理、と決まっているわけではありません。要介護5でも自宅で穏やかに過ごされている方を、私は何人も担当してきました。課題は支える体制がどれだけ組めるかです。
退院後の介護でよくある質問

- Q介護認定の結果が出る前に退院することになりました。サービスは使えませんか?
- A
結果が出る前でも、介護度の見込みを立てた計画でサービスを始められる場合があります。ケアマネジャーか地域包括支援センターに相談してください。ただし想定より軽い認定結果が出ると、一部が自己負担になることがあります。始める前に説明を受けておくと安心です。
- Q退院した当日から、訪問介護やデイサービスは使えますか?
- A
状況によっては当日から使えます。帰った初日は不安がいちばん大きい日なので、専門職に来てもらう価値があります。事前にケアマネジャーへ「退院当日から入れたい」と伝えておいてください。当日になってからでは事業所の調整が間に合いません。
- Q退院のときに介護タクシーを使いました。医療費控除の対象になりますか?
- A
対象になるかどうかは、その移動が治療に必要と認められるかで変わります。線引きが細かいため、領収書を保管したうえで税務署に確認するのが確実です。判断に迷う費用も、まとめて相談すれば整理してもらえます。
- Q入院前より歩けなくなりました。元に戻りますか?
- A
入院中に動かなかったことで落ちた体力は、動くことで戻せる場合があります。ただし回復には個人差があり、病気の種類や入院前の状態によって見通しが変わります。主治医とリハビリの担当者に、退院までに必ず確認してください。退院後もリハビリを続けられる方法があります。
- Q介護休暇は、親の退院の付き添いに使えますか?
- A
家族の介護のために取得できる休暇の制度があります。ただし取得できる日数や手続きは勤務先によって扱いが異なります。就業規則を確認するか、勤務先の担当者にたずねてください。早めに相談すると、退院日に合わせて調整しやすくなります。
まとめ 退院後の介護は決める順番で変わります

最後に、この記事の要点です。
退院までの日数が少なくても、順番さえ守れば間に合います。
一人で全部決める必要もありません。
病院の相談窓口、ケアマネジャー、地域包括支援センター。
相談できる相手は、あなたが思っているより多くいます。

退院の場に立ち会ってきて思うのは、迷っているご家族ほど親御さんのことをよく見ている、ということです。すぐに答えが出ないのは、真剣に考えている証拠です。決めた道を、あとから正解にしていけば大丈夫です。

