訪問看護の現場では、医学的な判断だけでは解決できない価値観の違いに出会うことがよくありませんか?
具体的にはリハビリの進捗に伴う歩行を自立する判断は、利用者さんとご家族様の思いのすれ違いが起こる場面です。
判断をする上で、利用者さん、ご家族様の価値観だけでなく、自分自身の価値観を捉え直すことで三方良しで判断することができます。
この記事では、価値観の把握が質の高いサービスを提供する上で大切だということを、訪問看護ステーションで勤務する理学療法士の立場から具体例を踏まえて説明します。
価値観とは何か?
価値観とは、何を大切にし、どう考え、どのように行動するかを決める基準です。
人は皆、異なる経験・背景・人間関係から価値観を育んでおり、それは人生観や仕事観、日々の判断に大きく影響します。
例としては
- 誠実さ
- 挑戦
- 思いやり
- チームワーク
- 責任感
- 感謝
など、実にさまざまです。
価値観は、人の選択の理由になっており、価値観を理解することで相手の行動や気持ちがより深く見えてきます。

よく出会う「価値観の衝突」
リハビリを継続していくと、歩行が安定してきて「いよいよ自立に向けて歩いてみませんか」という段階になることがあります。
しかし、ここで利用者さんとご家族様の価値観がズレることがあります。

1人で歩きたい、自分でできることは自分でやりたい

転倒が怖い。怪我をしたらもっと大変になるから1人では歩かせたくない。
そんなに無理をさせなくてもいいのでは。
どちらの気持ちも自然で正解です。
『自立したい』という価値観と『安全を守りたい』という価値観がぶつかっています。
担当者としての判断は簡単ではない
病院であれば、病棟スタッフやリハビリチームで意見を出し合いながら歩行レベルを決めることができます。
先輩にも気軽に相談できます。
しかし訪問では、
最終的に歩行を自立と判断するのは担当者自身です。
歩行自立を認めれば生活の自由度は格段に広がりますが、転倒のリスクをゼロにすることはできません。
もし転倒して入院につながれば、「やはり危険だった」という評価になることもあります。
そのため、訪問では以下の要素を総合的に読み解き、ひとつの答えを出さなければなりません。
- 身体機能
- 生活環境
- 本人の意向
- 家族の不安
判断するには、価値観の理解が欠かせません。
私が実践していたこと:価値観を見える化する
このような場面で、私が大切にしていることがあります。
① メリット・デメリットを包み隠さず共有する
歩行自立による生活の拡大や達成感だけでなく、
- 転倒リスク
- 状況によって必要となる見守り
- 予防策としての環境調整
などを明確に伝えます。 - 自立することで起こる生活の変化
② 利用者さんとご家族様の本音を聞く
- 本人は何を大切にしたいのか
- 家族はどこに不安があるのか
- 互いにどこまで歩み寄れるのか
価値観を整理していくと、どちらか一方が正しいわけではないことに気づくことができます。
③ 福祉用具の専門家と協働する
杖の種類や高さ、歩行器導入のタイミングなどは、福祉用具業者さんにお願いして実際に試してもらいます。
「お試し」ができることで、利用者さんも家族も安心して納得のいく判断がしやすくなります。
このプロセスを丁寧に行うことで、
価値観を尊重したうえでよりよく生きる方法を共に探すケアが実現します。
価値観に寄り添うことのメリット
価値観を理解することで、サービスの質は大きく向上します。
- 利用者さんの行動や希望の理由がわかる
- コミュニケーションがスムーズになる
- ご家族様との信頼関係が深まる
- ケアの満足度が高まる
- スタッフ自身も迷いが減り、判断しやすくなる
- 多職種チームとの連携も円滑になる
医学的に正しいかだけでなく、
その人にとって正しい選択かを考えられるようになる
という大きなメリットがあります。
自分自身の価値観を知ることも重要
利用者さんの価値観を尊重するためには、
まず自分の価値観を知ることも欠かせません。
なぜなら、自分の価値観を知らないと、意図せず相手に自分の基準を押し付けてしまうことがあるからです。
自分の価値観を知る方法
- 過去の成功体験・違和感のある体験を振り返る
- 尊敬する人の理由を分析
- 自分が大切にしたいことをリスト化し優先順位づける
こうした内省により、より中立的で冷静な支援ができます。
まとめ
訪問看護は、病院とは異なり生活そのものに関わる仕事です。
だからこそ、利用者さんとご家族様の価値観を丁寧に理解し、尊重することが不可欠です。
価値観を理解しようとする姿勢は、
- 「この人はどう生きたいのか」
- 「家族は何を大切にしているのか」
- 「支援者としてどのように寄り添えるか」
を一緒に考える力になります。
価値観が違うことは問題ではありません。
むしろ、より良いケアを生み出すための大切な材料です。
私たち訪問スタッフは、医学的な視点だけでなく、
価値観を重ね合わせながらその人らしい生活を支える存在でありたい
と感じています。


