
昇給表を見たら、この先20年働いても年収がほとんど変わらなかった。

毎年たくさんの後輩が入ってくる。理学療法士は増えすぎではないか。
そんな不安から、「理学療法士 将来性」と検索した方もいるのではないでしょうか。
将来が不安になるのは、この仕事を辞めたいからとは限りません。むしろ、この先も理学療法士として働き続けたいからこそ、先の見えなさが怖くなるのだと思います。
私は理学療法士として18年間働き、5つの現場を経験してきました。
- 維持期の病院
- 急性期の病院
- 老健の入所・通所
- 訪問リハビリ
- 訪問看護ステーション
同じ資格でも、働く場所が変われば、求められる役割も評価される経験も変わります。
ただし、最初に厳しい現実もお伝えします。
理学療法士が増えていることへの不安は、考えすぎではありません。
2019年に公表された厚生労働省の需給推計では、理学療法士・作業療法士の供給数は2040年ごろに需要数の約1.5倍になる可能性が示されています。
もちろん、この推計は一定の前提のもとで計算されたもので、将来を確定するものではありません。
それでも、「資格を取ったから一生安泰」とは言い切れない状況になっているのは確かです。
一方で、「理学療法士はもう食べていけない」と一括りにするのも正確ではありません。
求人状況は地域や領域によって異なり、これまでに積んだ経験によっても選べる職場は変わるからです。
読み終える頃には、「理学療法士の資格は大丈夫か」という漠然とした不安が、「自分は次にどんな経験を積み、何を優先するか」という具体的な問いに変わります。
理学療法士は本当に増えすぎなのか

理学療法士の人数が増えているのは事実です。
国家試験では毎年多くの理学療法士が誕生しており、2026年の合格者数は1万1,156人でした。
職場によっては採用競争が厳しくなったり、希望する役職の数が限られたりする可能性があります。
ただし、全国どこでも同じ状況とは限りません。
厚生労働省は、2040年に向けて在宅医療の需要が増えると見込む一方、医療需要の変化には地域差があるとしています。人口減少が進む地域では、医療需要が減る可能性もあります。
参考:厚生労働省「新たな地域医療構想について」
私自身の経験でも、病院では希望するポストが限られている一方、訪問や生活期の現場では理学療法士を募集している事業所を見かけました。
これは「在宅へ行けば安泰」という意味ではありません。
求人の数や条件は地域によって違います。訪問件数、運転の有無、給与体系、教育体制も事業所ごとに大きな差があります。
理学療法士の将来性は、資格だけでは決まりません。

将来性はどの地域で、どの領域に立ち、どんな経験を積むかによって変わるというのが、私の実感です。
理学療法士の不安の正体は「今の職場の延長線」かもしれない

私が「このままではまずい」と強く感じたのは、以前勤めていた職場でのことです。
同期入職した仲間が、一人、また一人と辞めていきました。数年後には、私だけが残っていました。
退職理由を直接聞けた人のなかには、家庭の事情ではなく、働き方や職場のあり方に迷いを口にする人もいました。
周囲の役割や立場が変わっていく一方で、私の業務内容はほとんど変わりませんでした。
少なくとも私自身は、評価されている実感を持てずにいました。

「このまま同じ仕事を続けて、数年後の自分に何が残るのだろう」
そんな絶望感に近い不安がありました。
当時、私が職場を変えることで解決したかったのは、主に次の3つです。
振り返ると、あの頃に感じていたのは、理学療法士という資格への不安だけではありませんでした。
「今の職場で、このまま働き続けた場合の延長線」が見えてしまったことへの不安だったのだと思います。
一つの職場しか知らなかった頃は、その職場の給与や評価制度が、理学療法士の世界のすべてに見えていました。
しかし、異動や転職を通して複数の現場を経験すると、職場が変われば求められる能力も変わることに気づきました。

当時感じていた手詰まり感の一部は、「資格の限界」ではなく「知っている選択肢の少なさ」から生まれていたのだと思います。資格があれば安心とは言えません。ただ、今の職場だけを見て資格の限界を決めるのも早いです。
各現場の違いについては、【体験談】理学療法士の病院以外の働き方3選!老健・訪問リハ・訪問看護を比較【理学療法士18年】で詳しく紹介しています。
理学療法士がキャリアで後悔しない3つの考え方

- 求人で求められる経験を見る
- 需要のある領域へ、少しずつ経験を寄せる
- 得るものと失うものを確認する
考え方1 資格全体ではなく、求人で求められる経験を見る
「理学療法士という資格に将来性があるか」と考え続けても、具体的な行動にはつながりません。
自分が希望する地域や職場の求人では、どのような経験が求められているのかを確認する方が現実的です。
例えば、次の項目を見てみてください。
求人を10件ほど見るだけでも、自分に足りない経験と、すでに評価される可能性のある経験が見えてきます。

「市場価値」という曖昧な言葉だけで考えるより、実際の求人票に書かれている条件と照らし合わせる方が具体的です。
ケアマネジャー資格が訪問看護で役立った
私の場合、訪問看護ステーションへの転職では、ケアマネジャー資格を取得していたことが役立ちました。
医療保険と介護保険、医療費助成、指定難病などの制度を理解しやすかっただけではありません。
ケアマネジャーが担当する仕事の範囲を理解していたため、利用者さんに変化があったときに、「すぐ共有すべき情報か」「次回の連絡でもよい内容か」を判断しやすくなりました。
訪問分野で求められるのは、リハビリの技術だけではありません。
制度を理解し、必要な情報を整理し、適切なタイミングで関係者へ伝える力も必要です。

自分では遠回りに見えた経験や資格が、職場を変えたことで強みになる場合があります。今すぐ活きなくても、無駄になるとは限りません。
考え方2 需要のある領域へ、少しずつ経験を寄せる
在宅医療や生活期の支援は、今後も一定の需要が見込まれる領域です。
ただし、いきなり訪問分野へ転職する必要はありません。
現在の職場でも、次のような経験を増やせる可能性があります。
今いる場所で積める経験と、将来行きたい領域で求められる経験を、少しずつ近づけることが大切です。
訪問で活かせたのは「小さな約束を守る力」だった
訪問の現場で学んだのは、技術を提供する前に、生活者として信頼してもらう必要があるということでした。
どれも、特別なリハビリ技術ではありません。
長期間にわたって自宅を訪問する仕事では、このような小さな積み重ねが信頼関係の土台になります。
「あんたが言うのなら」と言っていただけた日
信頼関係の大切さを実感したのは、歩行器の導入をめぐる場面でした。
その方は、歩行器を使うことに強い抵抗がありました。
身体の状態としては、杖では介助者が手を引く必要がある一方、歩行器を使えば付き添いだけで歩ける力がありました。
歩行器のメリットだけでなく、デメリットも言葉でお伝えしました。
それでも、ご本人の不安は簡単には解消されませんでした。
しばらく訪問を続けたある日のことです。
「あんたがそんなに言うのなら、歩行器を使ってみようかな」
そう言っていただき、まずは歩行器を試してみることになりました。
結果として、歩行器を利用することで配偶者と屋外を散歩することができるようになりました。
「あんたが言うのなら」
この一言を聞いたとき、それまでの小さな関わりが、提案を受け止めてもらう土台になっていたのだと感じました。

信頼は、言葉だけでは作れないと思います。普段からの行動や接し方、マナーの積み重ねがあって、初めて提案を受け取ってもらえます。発言したことに責任を持ち、小さな約束を守ること。これが、私が訪問分野で活かせた強みの一つでした。
病院でうまくいった方法が、在宅でも通用するとは限らない
一方で、病院でうまくいった関わり方を、そのまま在宅へ持ち込んでも通用しませんでした。
同じ疾患や身体機能でも、本人が望む生活は異なります。
セラピストが良いと考える目標と、利用者さんが大切にしていることが一致するとも限りません。
丁寧に説明し、相手に合わせようとしても、期待や価値観の違いから苦情につながることもありました。
技術や接遇だけで、すべての関係を解決できるわけではありません。
個人の努力だけで関係を修復しようとせず、必要に応じてチームで共有し、目標や関わり方を見直すことも、訪問の現場で身につけた力です。
考え方3 得るものと失うものを確認してから職場を選ぶ
「今の職場しかない」と思って残るのと、ほかの選択肢を確認したうえで残るのでは、同じ場所にいても納得感が違います。
求人を見ることは、転職を決めることではありません。
自分の地域ではどのような職場が募集しているのか、給与はいくらか、どのような経験が評価されるのかを知るための情報収集です。

私は、求人を見ることを「資格とキャリアの健康診断」だと考えています。辞める準備ではなく、自分の経験が今どこで求められているかを知るためのものです。
ただし、求人票では良い面だけでなく、転職によって失う可能性があるものも確認してください。
訪問看護への転職で得たもの・失ったもの
現在の職場へ転職して、次の変化がありました。
一方で、リハビリに関するスキルアップは、職場を変えるだけでは解決しませんでした。
リハビリの専門知識は、外部で学ぶ必要があった
訪問看護ステーションでは、医療保険や介護保険の制度改定に伴って業務内容が変わります。私が勤務してきたステーションでも、制度や書類業務を周知するための勉強会が多くありました。
現在の職場では、週に1時間、業務時間内に勉強会の時間が確保されています。
ただし、実際の内容は次のようなものが中心です。
理学療法の知識や技術を体系的に学ぶ機会は限られています。
リハビリの専門性を高めるには、外部研修などを自分で探して学ぶ必要がありました。
訪問看護を支える制度、訪問看護指示書などの書類業務、制度がどのように変わってきたのかについては、入職後に学び直しました。
一つの組織で昇進するキャリアは築きにくくなった
転職によって、職場内でのキャリアの積み上げ方も変わりました。
複数回の転職を経験したことで、一つの組織で勤続年数を重ね、役職を上げていく道は選びにくくなっています。
現在の私も訪問業務が中心で、管理業務を経験する機会は多くありません。
以前勤めていた病院では、勤続年数によって給与が上がる年功的な仕組みが中心でした。訪問看護ステーションでは、一定以上の訪問件数が給与に反映されるインセンティブ制度を設けている事業所もあります。
ただし、訪問看護ステーションなら必ず収入が上がるわけではありません。
インセンティブが発生する条件や、利用者さん都合のキャンセル、有給休暇、書類作成時間の扱いは、事業所によって異なります。
私が転職で得たのは、家族との時間と、働いた量が給与に反映される可能性です。
反対に失ったのは、一つの組織で役職を上げていくキャリアと、職場内でリハビリを体系的に学べる環境でした。

どちらが正解という話ではありません。キャリアアップは昇進だけではないと思います。給与を上げる、専門性を高める、家族との時間を増やす。何を優先するかによって、選ぶ職場は変わります。
求人票では「研修あり」だけで判断しない
求人票のモデル年収だけでなく、その金額や働き方が成立する条件まで確認する必要があります。
私が特に分かりにくいと感じたのは、入職後の研修内容です。「研修あり」と書かれていても、次のような具体的な内容までは分かりません。
今なら、面接で「研修はありますか」と聞くだけではなく、研修期間、同行回数、独り立ちの判断基準まで確認します。
給与についても、次の点を確認してください。
求人サイトの情報だけで判断せず、応募前には事業所の公式採用情報を確認し、入職前には労働条件通知書にも目を通しましょう。
理学療法士が40代からキャリアの舵を切ることもできる

「もう40代だから、今さら動けない」と感じている方もいると思います。
私が訪問看護ステーションへ転職したのも、キャリアの後半に入ってからでした。
在宅の現場では、臨床判断、家族への説明、多職種との調整など、それまでに積み重ねた経験を活かせる場面があります。
一方で、経験年数が長ければ何でもできるわけではありません。

私も訪問看護の制度や書類業務については、未経験者として覚え直す必要がありました。
年齢を重ねてからの転職では、「経験者として評価される部分」と「新人として学び直す部分」の両方があります。
給与が一時的に下がる可能性、運転や移動の負担、新しい制度や記録方法を覚える負担も考えなければなりません。
年齢だけで諦める必要はありませんが、良い面だけを見て決めないことが大切です。
年齢の不安や長く働くための工夫については、【不安解消】訪問看護は何歳まで働ける?40歳以上が7割の実態と長く働き続ける工夫5つ【理学療法士18年】でも紹介しています。
看護師向けの記事で、理学療法士の採用データではありませんが、体力管理や働き方の選び方には、リハビリ職にも共通する部分があります。
医療機関から訪問看護ステーションへ移った実体験は、【転職】理学療法士が医療機関から訪問看護ステーションに転職して感じたメリット・デメリット3選にまとめています。
よくある質問

- Q理学療法士は「食べていけない資格」になりますか?
- A
将来を断言することはできません。理学療法士・作業療法士の供給が需要を上回るという推計はありますが、求人状況は地域や領域、経験によって異なります。「資格があれば安心」とも「資格に価値がなくなる」とも言い切れません。
- Q給料が上がらないのは、どの職場も同じですか?
- A
同じではありません。基本給、昇給制度、手当、賞与、インセンティブの仕組みは職場によって異なります。求人票のモデル年収だけでなく、その金額に到達するための訪問件数や役職、勤続年数まで確認してください。
- Q作業療法士・言語聴覚士にも当てはまりますか?
- A
今の職場の将来性と資格全体の将来性を分けて考えることや、求人で求められる経験を確認することは共通します。ただし求人数や需要、求められる経験は職種と地域によって異なるため、それぞれの求人を確認してください。
- Q理学療法士を辞めて、別の仕事へ転職した方がよいですか?
- A
資格を手放す前に、病院以外の領域や別の職場も確認してみてください。職種を変えなくても、職場や働く領域を変えることで解決する不安があります。一方で、理学療法士の仕事そのものが自分の希望と合わない場合は、異業種も含めて検討する必要があります。
- Q将来のために今日からできることはありますか?
- A
希望する地域の求人を10件ほど保存し、給与、休日、仕事内容、必要な経験、教育体制、昇進の可能性、インセンティブの条件を比較してみてください。応募や会員登録を急ぐ必要はありません。まずは、自分の経験がどこで求められているのかを知ることから始めてみてください。
まとめ 理学療法士の将来性は「資格だけ」では決まらない

この記事の要点をまとめます。
理学療法士の資格を持っているだけで、将来が保証される時代ではありません。
しかし、今の職場だけを見て、「この資格には将来性がない」と決める必要もないと考えます。
私はこの資格で18年、5つの現場を経験してきました。訪問看護への転職によって、家族と過ごす時間を増やすことができました。
一方で、リハビリの専門性は外部で学ぶ必要があり、一つの組織で昇進するキャリアからも遠ざかりました。
転職ですべての不安が消えたわけではありませんが、何を優先して働くのかを自分で選び直せたことには、大きな意味がありました。

資格の将来を心配するだけでは、状況は変わりません。まずは、自分の経験がどこで求められているのかを確認する。
そして、何を得たいのかだけでなく、何なら手放せるのかを考える。それが、理学療法士として18年働いてきた私の結論です。
求人情報は変更される場合があります。応募前には、勤務先の公式情報と実際の労働条件を確認してください。


