
移乗介助をしたあと、腰に電気が走った。湿布を貼って、次の訪問へ向かう。

体の使い方を教える側なのに、自分の腰は守れていない。同僚には言いにくい。
「訪問看護 腰痛 つらい」と検索するのは、痛みを抱えたまま、今日も訪問に出ているからではありませんか?
先にお伝えしたいことがあります。
訪問の現場で腰を痛めるのは、あなたの介助技術が低いからとは限りません。
国は介護・看護の現場に対して、全介助が必要な人にはリフトなどを使用し、原則として人力で抱え上げさせないことを求めています。
しかし在宅では、住環境や費用、ご本人・ご家族の希望などから、福祉用具をすぐに導入できないことがあります。
理学療法士として18年、訪問看護ステーションで10年以上働いてきた私が、国の指針と在宅の現実を踏まえて、腰への負担を減らす方法をお伝えします。
※本記事は、理学療法士として訪問看護の現場で働いた経験と、厚生労働省や日本整形外科学会が公表している資料をもとにしています。診断や治療について述べるものではありません。痛みやしびれなどがある場合は、医療機関へご相談ください。
この症状があるときは、我慢せず受診してください

腰への負担を減らす方法を考える前に、受診が必要な状態を見逃さないことが大切です。
日本整形外科学会では、次のような症状を伴う腰痛について、速やかに整形外科を受診するよう呼びかけています。
参考:日本整形外科学会「腰痛」
湿布を貼って働けているから、大丈夫とは限りません。
痛みをかばいながら介助を続けると、腰だけでなく、膝や股関節、肩など別の場所にも負担が広がることがあります。

「この程度で受診するのは大げさかもしれない」と考え、湿布で乗り切る人は少なくありません。しかし、脚のしびれや力の入りにくさ、排尿の異常がある場合は、仕事を優先せず受診してください。
訪問看護の腰痛は、体の使い方だけの問題ではありません

厚生労働省によると、社会福祉施設や医療保健業などを含む保健衛生業では、仕事が原因となった腰痛の死傷年千人率(働く人1,000人あたり・1年間の労働災害の発生率)が0.25となっています。全業種平均は0.1です。
これは、仕事が原因で労働災害となる腰痛の発生率が、全業種平均より高いことを示しています。
腰を痛めたとき、多くの人が次のように考えます。
もちろん、姿勢や体の使い方も関係します。
しかし、狭い浴室、低いベッド、福祉用具がない住環境、1人での訪問、介助量の多い利用者さんが続く勤務など、個人の努力だけでは変えられない条件もあります。

私も、腰を痛めた人が「自分の介助が下手だったからだ」と考える場面を見てきました。しかし、腰痛が起きやすい条件が重なっているのに、すべてを個人の技術へ戻してしまうのは違うと思っています。
自宅での入浴介助は、腰への負担が集中しやすい

私が訪問看護ステーションで働くなかで、腰への負担が大きい場面として看護師からよく聞くのが、自宅の浴室を使った入浴介助です。
自宅で1人で入浴できなくなった場合や、介助するご家族の負担が大きくなった場合には、状態やケアプランに応じて次のようなサービスが検討されます。
通所サービスで入浴する方法もありますが、すべての人が利用できるとは限りません。
通うこと自体が体力的に負担になる人もいます。外出を面倒に感じる人や、ほかの人に裸を見られることへの羞恥心から、通所サービスを希望しない人もいます。
その場合、自宅での入浴介助が選ばれることがあります。
しかし、一般家庭の浴室は、介助のために設計されているわけではありません。
お湯につかったあとは、立ち上がるときにふらつくこともあります。
衣服を着けていない濡れた体は支えにくく、ふらついた瞬間には、転倒を防ぐために利用者さんの体をとっさに抱えるように支えざるを得ない場合があります。
介助者は前かがみやひねった姿勢になり、全身に力が入ります。
こうした環境では、腰への負担が大きくなります。

「入浴介助の方法が下手だから腰が痛い」とは限りません。利用者さんが1人では安全に入浴できないからこそ、サービスが導入されています。最初から介助量が大きくなりやすい仕事なのです。
国も、訪問の現場の腰痛リスクを指摘しています

厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、訪問介護・看護について、自宅が職場になるため、腰痛予防に必要な作業環境が十分に整っていない可能性があると指摘しています。
そのうえで事業者に対して、各家庭へ説明し、腰痛予防のための対応について理解を得るよう努めることを求めています。
大切なのは、腰痛予防のために住環境を整える働きかけを、訪問する職員だけの責任にしていないことです。
事業所からご本人やご家族へ説明することも、腰痛予防対策の一部として示されています。

在宅では、職員が訪問先の環境を自由に選べません。だからこそ、住環境や介助方法の問題を、訪問した個人だけに背負わせないことが大切です。
国が示しているのは「原則として人力で抱え上げない」

厚生労働省の指針では、移乗・入浴・排泄介助における抱え上げは、働く人の腰へ大きな負担をかけるとしています。
全介助が必要な人にはリフトなどを積極的に使い、次のように示しています。
原則として人力による人の抱上げは行わせないこと
「できるだけ上手に抱える」ではありません。
原則は「人力で抱え上げない」です。
利用者さんの状態に応じて、次のような福祉用具を使用する方法も示されています。
一方、福祉用具の使用が難しく、どうしても人力で抱え上げなければならない場合についても、指針は触れています。
利用者さんの状態や体重を考慮し、適切な姿勢を取るとともに、身長差の少ない2人以上で作業することが示されています。
ただし、2人で抱えれば安全という意味ではありません。
指針の解説では、複数人で体重を分散しても、前かがみや中腰などによる腰痛のリスクは残ると注意しています。
やむを得ず人力で抱え上げる場合は、利用者さんにできるだけ近づき、腰を落とすなど、腰への負担を少しでも減らす姿勢で行うことが必要です。
複数名での対応は、福祉用具の代わりとなる第一選択ではありません。
福祉用具を使用できず、どうしても人力で抱え上げなければならない場合の負担軽減策です。
「福祉用具がないから、1人で頑張る」という結論ではありません。
在宅では福祉用具をすぐに導入できないことがある

指針は訪問介護・看護も対象にしています。
ただし在宅では、住環境、費用、ご本人・ご家族の希望などから、福祉用具をすぐに導入できないことがあります。
訪問先によっては、リフトやスタンディングマシーンが導入されていないこともあります。
福祉用具が入ると、その場の介助が楽になるだけではありません。
それでも、導入が進まないことがあります。
買ったばかりのベッドを捨てられなかった利用者さん
高さを調整できる介護ベッドをご提案したときに、こういうことがありました。
その方は、体の力が落ちてきたことをご自身でも感じ、市販のベッドを買われたばかりでした。購入から1年も経っていません。
部屋にベッドを2台置く余裕はありませんでした。
介護ベッドを入れるには、買ったばかりのベッドを処分する必要がありました。
払った代金が無駄になります。
まだきれいなものを捨てるのは、もったいない。
処分する手間や粗大ごみの費用もかかります。
説明が足りなかったのではありません。ベッドを捨てるという判断そのものが、重かったのです。
結局、介護ベッドを導入したのは、夜間にトイレへ行くための立ち上がりが負担になってからでした。高さを調整できる介護ベッドが入ったことで、ご本人は立ち上がりやすくなり、夜間にトイレへ移動する負担感が減りました。
トイレに間に合わないことも減り、ズボンや下着の尿汚染、トイレ周囲の汚れが少なくなりました。その結果、ご家族が洗濯や掃除にかける時間と負担も減りました。
在宅では、福祉用具が必要だと説明すれば、翌日から導入できるわけではありません。
ご本人やご家族が、必要性を実感して受け入れるまでに時間がかかることもあります。
その間も、訪問は続きます。

ここは理想と現実が離れている部分です。「指針に書かれているから、明日から抱え上げません」と言うだけでは解決しません。ただし、福祉用具が入るまで、1人で無理な介助を続けてよいわけでもありません。その間をどう乗り切るかは、個人ではなく、事業所や関係者と一緒に考える問題です。
訪問先で腰への負担を減らす3つの方法

福祉用具の導入には時間がかかることもあります。
それまでの間を含め、在宅の現場で考えたい方法を整理します。
利用者さんに残っている力を使ってもらう
必要以上に介助すると、介助する側の負担が増えるだけでなく、利用者さんが自分で動く機会も減ってしまいます。
確認したいのは、次のような点です。
座れる人を、寝たまま抱えて動かしていないか。
手すりがあれば立てる人を、座ったまま持ち上げていないか。
利用者さんに残っている力を活かすことは、介助者の負担を減らすだけでなく、生活動作を保つことにもつながります。
ベッドの高さと作業場所を整える
介護ベッドが入っている場合は、ケアを始める前に高さを調整します。
おむつ交換や処置を低い位置で行うと、前かがみの姿勢が長くなります。
体の使い方を工夫することも必要です。
ただし、体の使い方だけで腰を守り切ろうとせず、先に環境や道具で減らせる負担がないかを考えます。
1人で抱え上げない
利用者さんの身体機能が低下し、これまで1人でできていた介助が難しくなることがあります。
「前回まではできたから」と、そのまま1人で続けるのは危険です。
次のような変化があれば、事業所へ相談するタイミングです。
相談するときは、「腰がつらい」だけでなく、どの動作で、どの程度の介助が必要になったのかを具体的に伝えてください。
1人で難しい介助は「複数名での訪問」を事業所に相談する

福祉用具がすぐに導入できず、1人での介助が難しい場合には、複数の職員で訪問する方法もあります。
介護保険には、一定の条件を満たした場合に、複数名でサービスを提供できる仕組みがあります。
訪問看護には複数名訪問加算がある
介護保険の訪問看護には「複数名訪問加算」があります。
1人の看護師等による訪問看護が難しいと認められる場合などに、複数の職員で同時に訪問する仕組みです。
ただし、職員の腰が痛いという理由だけで、自動的に算定できるわけではありません。
利用者さんの身体状況などから1人での訪問が困難であることを事業所が判断し、利用者さんやご家族へ説明したうえで、同意を得る必要があります。
訪問介護にも複数名で対応する仕組みがある
在宅で同じような介助上の課題を抱える訪問介護にも、2人の訪問介護員で対応する仕組みがあります。
利用者さんの身体的理由などにより、1人では介助が難しいと認められる場合、2人の訪問介護員が同時に訪問できます。
一般に「2人介助加算」と呼ばれることもありますが、制度上は所定単位数の200%を算定する仕組みです。
対象となるのは、利用者さんやご家族の同意を得たうえで、次のいずれかに該当する場合です。
たとえば、体重が重い利用者さんへの入浴介助などが、身体的理由の例として示されています。
参考:厚生労働省「介護人材確保と職場環境改善・生産性向上、経営改善支援等」(PDF・約13MB)

1人での介助に不安を感じたら、「腰がつらい」だけで終わらせず、浴槽からの立ち上がりで全介助になる、ふらついたときに1人では支えられないなど、具体的に共有してください。利用者さんの安全を守るためにも必要な報告です。
事業所の経営面からも、適切な算定が必要です
事業所の判断で、加算を算定せず、利用者さんへ追加負担を求めない形で職員を2人派遣する場合もあります。しかし、1人分の報酬で2人の職員を派遣する対応を続ければ、人件費は増えても事業所の収入は増えません。
このような対応が常態化すると、人員の確保や職員教育、福祉用具への投資を続けにくくなります。
算定要件を満たしている場合に、必要性を記録し、利用者さんやご家族へ説明したうえで適切に算定することは、単に事業所の利益を増やすためではありません。
利用者さんの安全と職員の体を守り、サービスを継続するためにも必要です。
一方、複数名での訪問を算定すると、利用者さんの自己負担や区分支給限度基準額に影響する可能性があります。
現場の職員だけで決めず、管理者やケアマネジャーを交え、次の方法も含めて検討する必要があります。

「2人なら安全だけれど、加算は算定せず事業所が負担する」という対応は、短期間ならできても、長く続けるのは難しくなります。必要な支援に適切な報酬をつけることが、職員を守り、サービスを続けることにもつながります。
辞める前に、今の職場へ相談できること

腰が痛いからといって、すぐに転職を考える必要はありません。
厚生労働省の指針では、事業者が行う腰痛予防対策として、次のような内容が示されています。
次のような相談は、わがままではありません。

「自分だけ楽をするようで言い出しにくい」という声もあります。しかし、腰を痛めて訪問できなくなれば、利用者さんや同僚にも影響します。無理ができなくなってからではなく、無理が増えてきた段階で相談してください。
腰に負担がかかる仕事では、健康診断も確認する
厚生労働省の指針では、腰へ著しい負担がかかる介護・看護作業などに常時従事する職員について、腰痛の健康診断を行うことが示されています。
実施時期は、その作業へ配置するときと、その後6か月以内ごとに1回です。
確認する項目には、次のような症状が含まれています。
これは、すべての訪問看護スタッフに一律で行われる一般健診とは異なります。
自分が対象になるか分からない場合や、職場で実施されていない場合は、管理者や職場の健康管理担当者へ確認してください。
なお、仕事が原因で発生した腰痛は、労働災害として認められる場合があります。
認定は、業務内容、発症時の状況、医師の診断などをもとに個別に判断されます。
参考:厚生労働省「業務上疾病の認定等」
腰への負担の大きさは、職場によって違います

体の使い方を見直し、福祉用具や複数名訪問について相談しても、改善しないことがあります。
その場合は、負担の設計が違う職場を選ぶことも、体を守る選択肢です。
同じ介助内容や移動条件であれば、1日7件訪問する職場と5件の職場では、腰へ負担がかかる機会も変わります。
職場によって異なるのは、次のような条件です。
自転車移動では、同じ姿勢が続くことや、荷物を持って移動することも体への負担になります。
自転車移動の負担や雨天時の対策については、【訪問看護スタッフ必見】自転車移動がきついと感じたら?雨天対策や入職前の相談ポイントまとめで解説しています。
年齢と体力の不安については、【不安解消】訪問看護は何歳まで働ける?40歳以上が7割の実態と長く働き続ける工夫5つ【理学療法士18年】でも解説しています。
腰痛の観点から、訪問看護の面接で確認したいこと

腰への負担は、求人票の給与欄だけでは分かりません。
転職を検討する場合は、面接で次の項目を確認してください。
訪問件数と移動について
介助量について
福祉用具への姿勢について
職員の健康管理について
特定の職員が休職・復職したかを聞く必要はありません。
個人の事情ではなく、職場としてどのような支援制度や対応方針があるかを確認してください。
よくある質問

- Q腰痛持ちでも、訪問看護を続けられますか?
- A
介助方法、福祉用具、担当の組み方などを調整しながら続けている人はいます。ただし、安静にしていても痛みが軽くならない、痛みが悪化している、脚のしびれや力の入りにくさ、排尿の異常がある場合は、仕事より受診を優先してください。
- Qコルセットは使ったほうがいいですか?
- A
腰痛の状態によって異なります。自己判断で長期間使い続けず、使用する期間や場面について医師などへ相談してください。
- Q腰痛を理由に、訪問件数を減らしてもらえますか?
- A
まずは事業所へ相談してください。厚生労働省の指針では、人員配置において職員の健康状態を考慮し、腰への負担が大きい場合には勤務形態の見直しなどを検討することが示されています。希望どおりになるとは限りませんが、相談してはいけない内容ではありません。
- Q職員の腰痛があれば、複数名訪問加算を算定できますか?
- A
職員の腰痛だけを理由に、自動的に算定できるわけではありません。利用者さんの身体的理由などにより、1人での介護・看護が難しいと認められることや、利用者さん・ご家族の同意などが必要です。具体的な算定条件は、利用するサービスや保険によって異なります。管理者やケアマネジャーなどへ確認してください。
- Q訪問先にリフトがない場合は、どうすればいいですか?
- A
リフト以外にも、介護ベッド、スライディングシート、スライディングボード、手すり、浴槽台、入浴用いすなどがあります。利用者さんに残っている力や住環境に合わせて、導入しやすい福祉用具から検討します。導入までの介助方法や複数名での対応についても、個人で判断せず事業所へ相談してください。
- Q面接で腰痛について伝えるべきですか?
- A
訪問件数や介助内容に影響する状態であれば、伝えたうえで働き方を相談したほうが、入職後のずれを防げます。病名だけを伝えるのではなく、「どの動作が難しいか」「どの程度の介助なら対応できるか」を具体的に伝えると、必要な配慮を話し合いやすくなります。
まとめ 訪問看護の腰痛は、個人の努力だけで防ぐものではありません

この記事の要点です。
腰は、あなたが仕事を続けるための土台です。
今日から相談できることがあります。

利用者さんの体を守る私たちが、自分の体を削って働き続ければ、どこかで無理が来ます。自分の体を守ることは、良いケアを長く届けるためにも必要です。
看護師の方で、担当者へ相談しながら職場を探したい場合は、看護師専門の転職支援サービスもあります。

