訪問看護は、病院や施設とは違い、利用者さんの生活の場で行うケアです。その分、専門的な知識だけでなく、「生活」「環境」「人間関係」を読み取る総合力が求められます。
特に初心者のうちは戸惑うことも多いですが、以下の三か条を大切にすることで、安全で信頼される訪問看護師を目指せます。
第一道:「安全第一」——自分と利用者を守る意識を持とう
■ 訪問先は“医療機関”ではない
訪問看護では、利用者さんの自宅や施設がケアの現場になります。つまり、医療資源が制限された環境です。吸引器や酸素などはあっても、救急体制やドクターの常駐はありません。
■ 具体的に気をつけるポイント
- 感染対策の徹底
- 自宅では手指消毒が不十分な環境も多いです。自前の消毒グッズ、手袋、マスクなどの準備を常に忘れずに。
- 発熱・下痢・咳などの症状がある場合、訪問前に事業所へ報告し判断を仰ぐことが大切。
- 転倒・転落に注意
- 利用者さんの移動介助の際には、床の段差や濡れた場所、コード類に注意。
- ベッドからの移乗やトイレ動作では「滑りやすい場所」や「つかまる場所があるか」などもチェックしましょう。
- 自分の身を守るための準備
- 利用者さんが精神疾患や認知症を持っている場合、突発的な暴力行為の可能性もゼロではありません。
- まずは「常に出口を意識」「背を向けない」など、リスクマネジメントを意識した行動を取りましょう。
- 緊急対応のシミュレーション
- もし訪問中に利用者が急変した場合、「まず何をするか?」を常に想定しておくこと。
- 例えば、「意識レベル確認 → 呼吸・循環のチェック → バイタル測定 → 主治医/救急要請の判断 → ステーションに報告」などの流れを頭に入れておくと安心です。
第二道:「信頼関係がすべて」——心の通った関わりを意識しよう
■ 医療だけではなく「生活のパートナー」
訪問看護師は、単なる「注射や処置をする人」ではありません。
利用者さんや家族にとっては、「毎日を支えてくれる心の支え」「生活の相談相手」でもあります。
■ 具体的に気をつけるポイント
- 第一印象が大切
- 訪問先では最初のあいさつ、身だしなみ、笑顔が非常に大切。
- 「この人なら安心して任せられる」と思ってもらえるよう、清潔感・丁寧さ・言葉遣いを意識しましょう。
- 傾聴力を育てる
- 高齢の利用者さんは、話を聞いてほしいという思いを強く持っていることが多いです。
- 話の途中で遮らず、適度に相槌を打ちながら、その人の“生活史”にも興味を持つ姿勢が信頼につながります。
- 家族とも信頼関係を築く
- 在宅医療では、家族の協力が不可欠。日々の観察やケアの大部分を担ってくれるのは家族です。
- 感謝の気持ちを伝える、無理のない範囲でできることを提案するなど、共にケアする姿勢を大切にしましょう。
- 秘密保持とプライバシーへの配慮
- 訪問時、他の家族や近隣住民がいる場面では、病名やケア内容などの詳細は不用意に口にしない。
- 記録や情報は、ステーション内での共有にとどめる意識を持ちましょう。
第三道:「報告・連絡・相談」——独りで抱え込まない勇気を持とう
■ 訪問は基本1人、でもチームで支える
訪問看護は一人で利用者宅に行くため、「自分でなんとかしなきゃ」と思いがち。しかし、一人で全部を解決する必要はありません。
看護師同士・リハスタッフ・ケアマネジャー・医師と連携しながらチームで動くのが基本です。
■ 具体的に気をつけるポイント
- 「気づいたらすぐ報告」
- 利用者さんのちょっとした変化(食欲低下、元気がない、表情の違いなど)も、小さな兆候の可能性があります。
- 「こんなことで報告したら笑われるかな…」と思わずに、遠慮なくチームに共有しましょう。
- 判断に迷ったら、まず相談
- 特に薬の変更や皮膚状態の異常など、医療判断が必要な場面では必ず医師へ確認。
- 自分で勝手にケアの方法を変更したり、自己判断でスケジュールを変更しないことが原則です。
- 記録は“事実+判断”で書く
- 「○○さんは今日も元気そうだった」ではなく、「バイタル正常・食欲良好・睡眠良好・笑顔が多かった」など、観察した事実をもとに判断を書く癖をつけましょう。
- 記録は他のスタッフが見たときに、“今の状態”が把握できる情報ツールです。
- 困った時は遠慮せずSOSを
- 初めての訪問、難しい家族対応、急変対応など、どうしても不安なことはあるもの。
- 「助けて」と言えるのも立派なプロフェッショナルのスキルです。
- 相談できる環境を整えておくのも、訪問看護師にとって大切な“仕事の一部”です。
◆ まとめ:三か条を日常に落とし込もう
三か条 | 実践のポイント |
---|---|
安全第一 | 感染対策・環境整備・緊急時対応の習得 |
信頼関係 | 傾聴・丁寧な言葉遣い・家族との連携 |
報連相 | 小さな変化も報告、独断しない、困ったら相談 |
最後に:初心者のあなたへ
訪問看護は、最初こそ不安も大きいですが、やりがいも非常に大きい仕事です。利用者さんの「その人らしい生活」に直接かかわり、感謝される場面も多くあります。
一人で悩まず、仲間とともに、少しずつ成長していけば大丈夫。三か条を心に刻みながら、一歩ずつ前進していきましょう。