作業療法士は、心身のリハビリテーションを専門とする医療専門職です。
日常生活や仕事、趣味などの活動を「作業」と捉え、患者さんの生活の質を向上させることを目指します。
作業療法士の役割と仕事内容
作業療法士の主な役割は、患者さんが「その人らしい」生活を送れるよう支援することです。
具体的には以下の3つの能力の改善・維持を目指します:
- 基本的動作能力
- 応用的動作能力
- 社会的適応能力
基本的動作能力の改善
急性期の作業療法では、病気やけがの直後から以下のようなリハビリテーションを開始します:
- 自助具を使って自分で食事ができるようになる練習
- 家の中を自力で移動できるようになる練習
- トイレを自分で使えるようになる練習
これらの練習を通じて、心身の基本的な機能の改善を援助し、新たな機能低下を予防します。
応用的動作能力の向上
回復期の作業療法では、患者さんの状態が安定してから、より具体的な生活場面を想定したリハビリテーションを行います:
- 食事、トイレ、着替えなどの日常生活動作の練習
- 調理や掃除などの家事の練習
- 買い物に出かける練習
これらの練習を通じて、生活に必要な能力の獲得を目指します。
社会的適応能力の向上
作業療法士は、患者さんの社会復帰も視野に入れて治療・援助を行います。
例えば:
- 仕事に復帰するための準備
- 趣味やスポーツを楽しめるようになるためのサポート
- 地域社会との交流を促進するための支援
作業療法士の活躍の場
作業療法士の就職先は、主に以下の4つの領域に分けられます:
- 身体障害領域
- 総合病院、大学病院、クリニック、整形外科、リハビリテーションセンターなど
- 対象:病気やケガ、事故の後遺症などで身体に障がいが残った方
- 老年期領域
- リハビリテーションセンター、老人保健施設、在宅介護支援センター、特別養護老人ホームなど
- 対象:加齢や認知症で認知機能や身体機能が低下したお年寄り(65歳以上)
- 発達障害領域
- 小児病院、発達障がい者支援センター、児童発達支援施設、特別支援学校など
- 対象:自閉症、知的障がい、学習障がいなどの子ども
- 精神障害領域
- 精神科病院、精神科クリニック、精神科デイケアなど
- 対象:統合失調症、うつ病、不安障害などの精神疾患を抱える方
作業療法士と理学療法士の違い
作業療法士と理学療法士は、どちらもリハビリテーションの専門職ですが、以下のような違いがあります:
作業療法士:
- 対象:からだとこころの両方に障がいのある方
- 目的:応用的動作能力や社会的適応能力の回復をサポート
- 特徴:日常生活における各種作業のリハビリを行う
- 強み:からだとこころの双方にアプローチできる唯一のリハビリ専門職
理学療法士:
- 対象:主にからだに障がいのある方
- 目的:基本的動作能力の回復・維持をサポート
- 特徴:基本的動作についてのトレーニングや運動療法、物理療法などを行う
- 強み:スポーツ選手のケガの回復・予防分野でも注目されている
作業療法士になるには
作業療法士になるためには、以下の手順を踏む必要があります:
- 高校を卒業する
- 厚生労働大臣が指定する養成施設で学ぶ
- 4年制大学
- 3年制または4年制の専門学校
- 3年制の短期大学
- 作業療法士国家試験を受験し、合格する
作業療法の具体例
作業療法の具体例を挙げて、その役割をより詳しく見ていきましょう。
脳卒中後のリハビリテーション
脳卒中により右腕に麻痺が残った患者さんの場合:
- 評価:患者さんの身体機能、認知機能、生活環境を詳細に評価します。
- 目標設定:患者さんと相談しながら、「自分で食事ができるようになる」などの具体的な目標を設定します。
- 治療計画:目標達成のための段階的な計画を立てます。
- リハビリテーション:
- 麻痺した右腕の機能回復訓練
- 左手での食事動作の練習
- 自助具(特殊なスプーンや皿)の選定と使用練習
- 食事環境の調整(テーブルの高さ、椅子の位置など)
- 精神的サポート:リハビリの過程で生じる不安や焦りに対するカウンセリング
- 家族指導:家庭でのサポート方法を家族に指導
認知症高齢者の支援
認知症により日常生活に支障をきたしている高齢者の場合:
- 評価:認知機能、日常生活動作、生活環境、介護者の状況などを評価します。
- 目標設定:「安全に入浴できる」「趣味活動を継続できる」などの目標を設定します。
- 治療計画:認知機能の維持と安全な生活環境の構築を中心に計画を立てます。
- リハビリテーション:
- 記憶力や注意力を維持するための認知トレーニング
- 日常生活動作(着替え、入浴、食事など)の練習
- 趣味活動(園芸、手芸など)の継続支援
- 自宅環境の安全対策(手すりの設置、段差の解消など)
- 介護者支援:介護方法の指導、介護負担軽減のためのアドバイス
- 地域資源の活用:デイサービスなどの社会資源の紹介と利用支援
発達障害児の支援
自閉症スペクトラム障害のある子どもの場合:
- 評価:感覚処理能力、運動能力、コミュニケーション能力、日常生活スキルなどを評価します。
- 目標設定:「友達と遊べるようになる」「学校生活に適応する」などの目標を設定します。
- 治療計画:子どもの特性に合わせた個別プログラムを作成します。
- リハビリテーション:
- 感覚統合療法(様々な感覚刺激を統合する能力を高める遊び)
- ソーシャルスキルトレーニング(対人関係スキルの練習)
- 日常生活動作の練習(着替え、食事、整理整頓など)
- 学習支援(集中力の向上、学習環境の調整など)
- 家族支援:家庭での関わり方や環境調整についてアドバイス
- 学校連携:教師との情報共有、学校生活での支援方法の提案
作業療法士の魅力と課題
魅力
- 患者さんの生活に直結した支援ができる
- 創造性を活かした個別プログラムの立案
- 患者さんの成長や回復を間近で見られる
- 多職種連携によるチーム医療の一員としての役割
- 幅広い年齢層や疾患に対応できる
課題
- 業務の多様性による負担増加
- 専門性の高さゆえの継続的な学習の必要性
- 患者さんや家族との信頼関係構築の難しさ
- 医療制度の変化への適応
作業療法士の将来性
高齢化社会の進展や医療技術の発展に伴い、作業療法士の需要は今後も増加すると予想されています。特に以下の分野での活躍が期待されています:
- 地域包括ケアシステムにおける在宅リハビリテーション
- 認知症予防・ケア
- 障害者の就労支援
- 災害リハビリテーション
- テクノロジーを活用したリハビリテーション(VR、ロボット技術など)
まとめ
作業療法士は、人々の生活の質を向上させる重要な役割を担っています。医療技術の進歩とともに、作業療法士の専門性や技術も進化し続けることが求められます。患者さん一人ひとりの「その人らしさ」を大切にしながら、心身両面からサポートできる作業療法士は、これからの社会にとってますます重要な存在となるでしょう。
以上、参考になれば幸いです。