訪問看護の現場では、利用者さんの状態を観察し、必要なケアを一人で判断・実践する場面も少なくありません。
だからこそ、訪問看護師として働く中で「もっと適切に対応できるようになりたい」「より専門的な知識を身につけたい」と感じる方も多いのではないでしょうか。
訪問看護ステーションに所属する理学療法士の視点からも、訪問看護師として働く看護師の専門職としての責任感はとても強く、意識が高い職員さんが多くいます。
スキルアップのために資格を取得することは、利用者さんにとって安心を、そして自分自身にとっては自信をもたらしてくれます。
さらに、訪問看護ステーションにとっても、加算の算定やサービスの質向上といったプラスの効果もあります。
実際に訪問看護ステーションで働く訪問看護師さんがスキルアップのためにおすすめの資格や研修、そして専門管理加算を算定できる資格がもたらすメリットについて、わかりやすく紹介します。
資格・研修 | 特徴 | 加算との関係 |
---|---|---|
認定看護師 | 特定分野での高い実践力と指導力 | 専門管理加算(イ)対象 |
専門看護師 | 高度実践+教育・研究・マネジメント力 | 専門管理加算(イ)対象 |
特定行為研修修了者 | 医師の手順書に基づく特定行為実施が可能 | 専門管理加算(ロ)対象 |
精神科訪問看護研修修了者 | 精神疾患・心のケアに特化した支援力 | 精神科訪問看護基本療養費の算定要件 |
認定看護師(Certified Nurse)
認定看護師は、特定の分野における看護実践能力を高めるための資格で、日本看護協会が認定しています。
緩和ケア、皮膚・排泄ケア、在宅ケア、感染管理など、訪問看護にも直結する分野が多くあります。
分野 | 内容例 |
---|---|
感染管理 | 感染予防、院内・在宅での感染対策 |
緩和ケア | 痛みの緩和、終末期ケア |
皮膚・排泄ケア | 褥瘡予防、ストーマケア |
がん化学療法看護 | 副作用管理、在宅抗がん治療支援 |
呼吸器疾患看護 | 酸素療法、呼吸リハビリ |
摂食・嚥下障害看護 | 食事動作・嚥下訓練 |
慢性心不全看護 | 症状コントロールと生活指導 |
認知症看護 | BPSD対応、家族支援 |
在宅ケア | 在宅療養支援の専門実践 |
認定看護師の取得メリット
- 専門的な知識と技術を活かし、質の高い訪問看護が提供できる
- 医療・介護の両面で「専門管理加算(イ)」を算定できる
- 利用者やご家族との信頼関係構築につながる
- ステーション全体の看護レベル向上に寄与する
認定看護師になるには
認定看護師を目指すには、まず看護師免許を取得した上で、一定の実務経験が必要です。
- 看護師免許取得後 通算5年以上の実務経験(うち3年以上は特定分野での経験)
- 認定看護師教育機関(A課程またはB課程)を修了
- 日本看護協会によるマークシート方式の筆記試験(認定審査)に合格
認定審査料:51,700円(税込)
教育課程はA課程で約6ヶ月(615時間)、B課程では約1年(800時間+特定行為研修実習)となっています。
教育機関の受講料は機関により異なります(数十万円程度が一般的)
試験に合格すると「認定看護師」として登録され、全国で活動できるようになります。
取得までにおよそ2年ほどかかりますが、その分専門性と実践力が確実に身につく資格です。
認定看護師 | 看護職の皆さまへ | 公益社団法人日本看護協会
算定できる専門管理加算(介護・医療保険)
種類 | 算定額 |
---|---|
介護保険:専門管理加算(イ) | 250単位 |
医療保険:専門管理加算(イ) | 2,500円/月 |
対象となるのは、悪性腫瘍の鎮痛療法や真皮を越える褥瘡を有する方、人工肛門・人工膀胱を造設している方などです。
緩和ケアや皮膚・排泄ケアの認定看護師資格がこれらの算定に該当します。
専門看護師(Certified Nurse Specialist)
専門看護師は、看護学修士課程を修了し、高度な実践力・教育力・研究力を備えた資格です。
訪問看護では、がん看護や慢性疾患看護、老年看護などの領域で活躍の幅が広がります。
分野 | 内容 |
---|---|
がん看護 | がん患者の包括的ケア |
精神看護 | 精神疾患・家族支援 |
在宅看護 | 在宅療養支援の専門実践 |
地域看護 | 地域包括ケア・公衆衛生的支援 |
感染症看護 | 感染対策・予防管理 |
急性・重症患者看護 | 救急・ICU領域での高度看護 |
老人看護 | 高齢者の生活支援・介護予防 |
家族支援 | 患者家族への心理的ケア |
慢性疾患看護 | 慢性病の長期支援 |
災害看護 | 災害時の救護・トリアージなど |
専門看護師の強み
- 多角的な視点でアセスメントを行い、在宅療養者に最適なケアを提供
- チーム医療のリーダーとして役割を発揮
- 医療・介護両方の「専門管理加算(イ)」算定対象となる
専門看護師の存在は、訪問看護ステーションの信頼性を高め、質の高いサービス提供につながります。
資格取得までの道のり
専門看護師を目指すには、大学院(修士課程)で専門的な教育を受ける必要があります。
この点が、認定看護師との大きな違いです。
- 看護師免許取得後、通算5年以上の実務経験(うち3年以上は専門分野での経験)
- 看護系大学の大学院修士課程で所定単位を取得(約2年)
大学院での学費は学校によって異なりますが、2年間で数十万円〜百万円程度が目安です。 - 日本看護協会の認定審査(筆記・論述試験 200点満点)に合格
認定審査料は約30,000円(2025年時点) - 更新料:5年ごとに更新必要、更新審査料は約30,800円
試験は事例問題など実践的な内容で構成されており、合格後に正式に「専門看護師」として登録されます。
大学院での学びには時間と費用がかかりますが、その分、より高いレベルでの看護実践力やマネジメント力を身につけることができます。
専門看護師 | 看護職の皆さまへ | 公益社団法人日本看護協会資格認定を目指す方へ(資格について)
特定行為研修
特定行為研修は、2015年に制度化された、看護師がより高度な医療行為を自立して行うための研修制度です。
修了することで、医師の手順書のもと、38の特定行為を実施できるようになります。
主な特定行為の例
特定行為の例 | 内容 |
---|---|
気管カニューレの交換 | 呼吸管理が必要な方への安全なカニューレ交換 |
胃ろう・腸ろうカテーテルの交換 | 在宅栄養管理の安定化 |
膀胱ろうカテーテルの交換 | 尿路感染予防と生活の質の維持 |
褥瘡・慢性創傷の壊死組織除去 | 治癒促進と感染予防 |
高カロリー輸液の調整 | 栄養・水分バランスの最適化 |
これらの行為を、医師の細かな都度指示を待たずに、看護師が手順書に基づいて判断・実施できるようになることで、訪問看護の現場では迅速な対応や利用者の安全性向上につながります。
「在宅・慢性期領域パッケージ研修」
訪問看護師に特におすすめなのが「在宅・慢性期領域パッケージ研修」です。
鹿児島大学病院看護師特定行為研修センターなどで実施されており、在宅でよく遭遇する症例を中心に実践的に学べます。
研修区分 | 時間数 | 内容の一例 |
---|---|---|
呼吸器(長期呼吸療法)関連 | 11時間 | 呼吸器装着中の管理・緊急対応 |
ろう孔管理関連 | 19時間 | 胃ろう・膀胱ろうなどのケア |
創傷管理関連 | 29時間 | 褥瘡・慢性創傷の処置・デブリードマン |
栄養・水分管理(薬剤投与)関連 | 13時間 | 輸液管理・脱水補正など |
合計 | 72時間 |
特定行為研修の概要(鹿児島大学病院例)
- 受講審査料:1万円
- 受講料:76万7,800円
- 受講要件:看護師免許+実務経験5年以上+所属長の推薦
この研修を修了すると、「専門管理加算(ロ)」の算定対象となり、医療・介護報酬の両方で評価されます。
種類 | 算定額 |
---|---|
介護保険:専門管理加算(ロ) | 250単位 |
医療保険:専門管理加算(ロ) | 2,500円/月 |
特定行為に係る看護師の研修制度特定行為に係る看護師の研修制度について紹介しています。
精神科訪問看護に関する研修
精神科訪問看護の提供に必要な知識と技術を学ぶための研修です。
精神科訪問看護基本療養費の算定要件にも含まれており、訪問看護師のスキルアップ資格としても人気があります。
日本訪問看護財団「精神障がい者の在宅看護セミナー」概要
項目 | 内容 |
---|---|
対象 | 看護師をはじめ、資格・職種・就業状況を問わず受講可能 |
講義時間 | 約21時間 |
受講料 | 会員:15,400円/非会員:25,300円 |
主な内容 | 精神保健福祉の現状と制度、精神疾患と治療、家族支援、社会資源の活用など |
学べること・得られる効果
- 精神科訪問看護の制度や報酬、地域支援体制の理解
- 利用者・家族とのコミュニケーション技術
- 再発予防や服薬支援などの実践的知識
- 精神疾患のある方への安心できる在宅支援の提供
この研修を受講することで、訪問看護ステーションは精神科訪問看護加算の算定要件を満たせるようになり、精神疾患や発達障害、認知症など多様なニーズに応えることができます
研修 | 公益財団法人 日本訪問看護財団 公式ウェブサイト | 公益財団法人 日本訪問看護財団日本訪問看護財団はWebオンデマンド研修・Webライブ配信研修・集合研修を行っています。
「専門管理加算」で専門性が評価される
【医療保険】専門管理加算(2022年度新設)
区分 | 金額 | 対象 |
---|---|---|
専門管理加算(イ) | 2,500円/月 | 緩和ケア・褥瘡・人工肛門等の専門研修修了者 |
専門管理加算(ロ) | 2,500円/月 | 特定行為研修修了者 |
【介護保険】専門管理加算(2024年度新設)
区分 | 単位 | 対象 |
---|---|---|
専門管理加算(イ) | 250単位/月 | 認定・専門看護師等による専門的管理 |
専門管理加算(ロ) | 250単位/月 | 特定行為研修修了者による管理 |
▶算定対象となる利用者
- 悪性腫瘍で鎮痛療法・化学療法中
- 真皮を越える褥瘡がある
- 人工肛門・人工膀胱を造設しており管理困難
- 特定行為手順書に基づく医療管理が必要な方
▶この加算が意味すること
これらの加算は、「看護師の専門的判断・マネジメント能力」を報酬として評価する仕組みです。
つまり、認定看護師・専門看護師・特定行為研修修了者は、医療・介護両制度で共通して「専門管理加算」の算定対象になり、ステーション経営にも直接的なメリットがあります。
専門管理加算を算定できる資格がもたらす3つの良い効果
訪問看護師がこれらのスキルアップ資格を取得することは、単なるキャリアアップにとどまりません。
医療・介護の「専門管理加算」を算定できる資格を持つことで、次のような3つの良い効果があります。
① 利用者さんへの効果
有資格者による専門的なケアを受けられることで、より安全で質の高い看護を提供できます。
たとえば、褥瘡ケアや緩和ケアなど専門的な領域で、利用者さんの苦痛軽減や生活の質(QOL)の向上につながります。
② 看護師自身への効果
理論に裏づけられた知識と技術をもってケアができるようになり、自信を持って対応できます。
訪問先での判断力が高まり、チーム内でも専門職としての信頼が深まります。
③ 訪問看護ステーションへの効果
専門管理加算の算定により、事業所の医療・介護報酬が増加します。
また、専門性の高いスタッフが在籍していることは、利用者や医療機関からの信頼にもつながり、ステーション全体の価値向上にも貢献します。
まとめ 資格取得は「自分・利用者・職場」すべてを笑顔にする第一歩
訪問看護で専門性を高めたい看護師さんにとって、次の4つの資格・研修はそれぞれ異なる強みを持ちながら、共通して「利用者により質の高いケアを届ける」ための道を開いてくれます。
訪問看護師にとって、資格取得はスキルアップだけでなく、自分の仕事に誇りを持つ大切なきっかけになります。
「訪問 看護 師 スキル アップ 資格」を通じて、利用者さんの生活をより支えられる存在を目指してみませんか?
あなたの一歩が、利用者さん、チーム、そして地域全体の安心につながります。
気になる資格から、少しずつ挑戦していきましょう。