浴槽内に敷く滑り止めマットは、入浴時の安全性を高める重要な福祉用具です。
特に高齢者や体が不自由な方にとって、滑りやすいお風呂場での転倒リスクを軽減する役割を果たします。詳しく説明していきましょう。
理学療法士の目線から
身体機能が低下することで難しくなるのが入浴になります。
特に浴槽への出入り動作やお湯に浸かり、立ち上がることが難しくなることで、デイサービスなど通所系のサービスにて入浴される利用者さんが多くなります。
しかし、入浴の頻度としては2~3日/週になることが多く、もともとの入浴習慣で多い、毎日の、一日の終りに入浴することは難しくなります。
一方で在宅にて援助を受けながら入浴する場合は、ヘルパーさんの援助で入浴する(訪問介護サービス)や看護師さんの援助で入浴する(訪問看護サービス)があります。これらのサービスはご自宅の浴室にて援助を受けるサービスになります。
専用の浴槽そのものをご自宅に運び込み、入浴することを提供するサービス(訪問入浴サービス)も存在します。
入浴に関するサービスは大きな病気や怪我を機に入院し、退院時に導入されることが多い印象です。
在宅生活を送りながら徐々に身体機能が変化し、浴槽のまたぎ動作や浴槽にしゃがみ込んでからの立ち上がり動作にふらつきや努力が必要になった際に浴槽内の滑り止めマットは有効になります。
浴室の福祉用具については介護保険が適用でき、入浴台(踏み台)の導入や手すりを設置することができます。
滑り止めマットについては介護保険の適応がなく、自費での購入となります。
そのため、福祉用具業者からでも一般の業者でも値段に大きな差がありません。
福祉用具業者さんから何らかの福祉用具を利用している場合には、滑り止めマットをお試しで使用することができ、実際の使用感を確認してから購入することができます。
一度福祉用具業者さんに相談することをオススメします。
滑り止めマットの基本
滑り止めマットは、浴槽の底に敷いて使用する簡単な道具です。
主に以下の目的で使用されます:
- 浴槽内での滑り防止
- 立ち上がり時の安定性確保
- 転倒・転落リスクの軽減
これらのマットは、表面に滑りにくい加工が施されており、足裏との摩擦を増やすことで安定性を高めます。
種類と特徴
滑り止めマットには主に2種類あります:
- 置くだけタイプ
- 吸盤付きタイプ
最近は置くだけタイプが主流になっています。
これは設置が簡単で、必要に応じて取り外しや移動が容易だからです。
吸盤付きタイプは、浴槽底面にしっかりと固定されるため、より安定性が高いですが、設置や取り外しに少し手間がかかります。
使用上の注意点
滑り止めマットを安全に使用するために、以下の点に注意が必要です:
- 適切な浴槽選び: 底部に気泡を噴出するタイプの浴槽や、すべり止め用のパターンがある浴槽、木製やタイル貼りの浴槽には使用しないようにしましょう。
- 過度な力をかけない: マットの上で飛び跳ねたり、強くねじったりするのは避けましょう。マットがずれて危険です。
- 入浴剤との併用注意: 入浴剤を使用すると、マットの吸着力が低下する可能性があります。
- 適切なお手入れ: 酸性・アルカリ性洗剤、消毒剤、ベンジン、シンナー、クレンザーなどの使用は避けましょう。これらはマットの性能を低下させる可能性があります。
滑り止めマットの利点
- 安全性の向上: 滑りやすい浴槽内での転倒リスクを大幅に減らします。
- 自立支援: 高齢者や体が不自由な方の自立した入浴をサポートします。
- 心理的安心感: 転倒の不安が軽減され、リラックスして入浴を楽しめます。
- 簡単設置: 特別な工事や専門知識が不要で、誰でも簡単に使用できます。
- コスト効果: 比較的安価で、転倒による怪我や入院のリスクを減らすことができます。
選び方のポイント
滑り止めマットを選ぶ際は、以下の点を考慮しましょう:
- サイズ: 使用する浴槽のサイズに合ったものを選びます。
- 材質: 耐久性があり、カビや臭いがつきにくい素材を選びましょう。
- 表面の凹凸: 適度な凹凸があるものが滑り止め効果が高いです。
- 排水性: 水はけが良いものを選ぶと、衛生面でも安心です。
- 色: 浴槽との色の対比が強いものを選ぶと、視認性が高まり安全です。
正しい使用方法
- 設置前の準備: 浴槽の底をよく洗い、乾かします。
- マットの設置: マットを浴槽の底に広げ、しわやたるみがないようにします。
- 使用前の確認: 入浴前に、マットがしっかりと固定されているか確認します。
- 入浴時の注意: マットの上で急な動きをせず、ゆっくりと動作します。
- 使用後のケア: 使用後はマットを洗い、よく乾かして保管します。
お手入れの方法
滑り止めマットを長く使用するためには、適切なお手入れが重要です:
- 使用後の洗浄: 中性洗剤を使用し、優しく洗います。
- すすぎ: 洗剤が残らないよう、しっかりとすすぎます。
- 乾燥: 直射日光を避け、風通しの良い場所で乾燥させます。
- 定期的な点検: 破損や劣化がないか、定期的にチェックします。
ユニバーサルデザインとの関連
滑り止めマットは、ユニバーサルデザインの考え方に沿った製品と言えます。ユニバーサルデザインとは、年齢や能力に関わらず、できるだけ多くの人が利用できるデザインを目指す概念です。
滑り止めマットは以下のユニバーサルデザインの原則に合致します:
- 公平さ: 誰もが使用できる。
- 柔軟さ: 様々な使用方法に対応できる。
- 直感的・単純さ: 使い方が簡単で分かりやすい。
- 誤用に対する寛容さ: 使い方を間違えても大きな危険につながりにくい。
- 身体的負担の少なさ: 最小限の力で使用できる。
滑り止めマットの限界と補完策
滑り止めマットは有効な安全対策ですが、完璧ではありません。以下の点に注意し、必要に応じて他の対策と組み合わせることが重要です:
- 手すりの設置: 浴槽の出入りや立ち上がりをサポートする手すりを併用すると、より安全性が高まります。
- 浴室全体の滑り止め: 浴槽だけでなく、洗い場にも滑り止めマットを敷くことで、浴室全体の安全性が向上します1。
- 適切な照明: 浴室内を明るく照らすことで、視認性が向上し、安全性が高まります。
- 定期的な点検: マットの劣化や浴槽との相性を定期的にチェックし、必要に応じて交換します。
- 入浴習慣の見直し: ゆっくりと動作する、湯温を適切に保つなど、入浴習慣自体を見直すことも重要です。
まとめ
滑り止めマットは、簡単に導入できる有効な安全対策です。特に高齢者や体が不自由な方にとって、入浴時の不安を軽減し、快適な入浴体験をサポートします。
しかし、マットだけに頼るのではなく、浴室全体の安全性を考慮し、適切な使用方法とお手入れを心がけることが大切です。安全で楽しい入浴は、心身のリラックスと健康維持に重要な役割を果たします。滑り止めマットを上手に活用し、誰もが安心して入浴できる環境づくりを心がけましょう。
転倒リスクを減らすことで、入院や寝たきりになるリスクも軽減でき、より豊かな生活を送ることができる可能性が高くなります。
滑り止めマットは小さな工夫ですが、大きな安心をもたらす道具です。適切に選び、正しく使用することで、入浴時の安全性を高め、日々の生活に安心と快適さをプラスすることができるでしょう。